走って周りを見渡すが見つからない。ミフユが見つからない。
アイツをさっさと倒してミフユが走っていった方へ駆け出した…が、ミフユは見つからない。何処へ行った…?家に戻ったか…行くにしても私はミフユの家の場所を知らない。そう、だ。知らないんだ、何も。まだ出会って数日、回数にして二回。彼女との関係は浅い。

何故私は、こんなに必死にミフユを探しているのだろうか?

“友達”だから?…友達という言葉に、胸が痛くなった。別に、ミフユと友であることは嫌ではない…いや、本当は嫌だ。“友達”の関係でいるのは。

「…くそっ」

荒々しい言葉遣いが漏れる。エリートトレーナーである私がこんな言葉遣いをしては駄目だな。しかし仕方ない事だ、会いたい彼女を見つけ出せないでいるのだから。


「ねぇ、さっきの泣いていた女の人ってさ…確か」

「あー、カミツレさんの友達の」

ふと、耳に入った会話。「泣いていた女の人」…と聴いて動かしていた足を止めた。会話をしていた人間の方を見る。

「どうしたんだろうね?泣きながらジムの方に走って行っちゃって」

「さぁー…」

「ミフユさん…心配だなぁ…」

ミフユという名前が出た瞬間、また足を動かした。ジム…といったらライモンジムだろう、ジムリーダーはカミツレ、一致する。ジムへと必死に足を走らせた。







バンッ!とジムのドアを開けた。ドアの近くにいたトレーナーに詰め寄る。

「ここにミフユは居るか!?」

「え!?あ、あの」
「私の名前はナツキだ!ミフユの…友、の。居るのなら頼む…ミフユの所まで案内してくれ!」

「…いや、でも…」
「頼む!」

私の気迫に押されたのか、トレーナーは「…じゃ、じゃあカミツレさんの所にいらっしゃるようなので、ご案内します…」と歩き始めた。

ジムの裏手にある部屋の前まで来た。コンコン、とジムトレーナーはドアをノックした。

「カミツレさん」

「なに?今ちょっと手が放せないんだけど?」

「あの…客…というか…」

「私に?」

「いえ、ミフユさんに…ナツキ、というトレーナーが」

「え…ナツキくん…?」

「通して」
「え…」「わかりました」

道を譲られる。私は、気持ちを落ち着かせるように一度息を吐いた。自分の言いたいこと、思っていることを伝えよう。そう、私はミフユと友という生暖かい関係では居たくない。私は――




(彼女の隣で、共に歩く存在でいたい)











×××

少し汗をかいて、息を切らせたナツキくんは、真っ直ぐと私の目を見ていた。

「私は少し席を外すわね」

「カミツレ…」

カミツレにウインクされた。少し顔を綻ばせ、カミツレは部屋を出て行った。静まり返る部屋、私とナツキくん二人きり。ナツキくんが口を開いた。

「さっき、あの男と…ミフユの彼氏とポケモンバトルをした」

「…え?」

「私が勝ったら、『二度とミフユに近づくな』と持ちかけた」

「!」

「…勝手なことをしてすまない」

頭を下げるナツキくん。なんで、そんなことを、してくれたのだろう。なんでナツキくんが頭を下げるの。むしろ頭を下げなければいけないのは私だというのに

「勝った。あの男に勝った」

「…」

「もう会わなくていい、ミフユが会う必要はない。理不尽な言葉を浴びせられる事は、もうない」

「……ナツキ、くん」

「本当に勝手な事をしてすまなかった。余計なお世話、と言われても仕方ないことは分かっている」

私は首を横に振った。全然余計なお世話なんかじゃない


「ありがとう…私の為に、」
「…ミフユの為じゃない、自分の為にやったことだ。私が、ミフユにもうあの男と会ってほしくないから…」

ナツキくんに、体を抱きしめられる。突然の事でびっくりしたけど、なんだろう…嫌じゃない。むしろ安心する。私の頭がナツキくんの胸辺りにあって、ナツキくんの心臓の鼓動が聞こえる、少し早い…


「私は、ミフユが好きだ」

「ナツキくん…」

「会って日も浅いけれども、一緒に居たい存在だと、思った。それで…」

ナツキくんの言葉が詰まり、あー…うー、と唸っていた。顔を上げてナツキくんの顔を見ると、赤く染まっていた。それを見て私は笑った。

「な!何故笑う!?」

「ふふ…だってナツキくん、観覧車乗ってるときみたいに余裕無い顔するんだもん。観覧車の時と違って顔は赤いけど」

観覧車じゃあ、顔真っ青だもんね。と私はまた笑った。
少し、ほんの少しだけナツキくんと距離をあける。そして私はナツキくんの手を取った。

「まだ私、ナツキくんと会ったばっかりだから、好きとか、付き合うとか全然考えたことなかった」

「…そう、か」

「でもね、ナツキくんは普通の友達じゃなくて…なんか特別だと思えるの」

「……」

「だから、えーっと…その…」













「…親友からでお願いします…?」