奥村くんの声にとても安心した。その微笑む顔に切なくなった。理由も考えずに謝りたくなって、そんなことまでさせてしまえる彼は本当にすごいと思った。息を飲んで真っ直ぐ見つめる。肌寒い風が通り過ぎていった。

「そうやって生きているのが楽なんだったら、それでいい」

乾燥してざらついた唇を舐める。体は妙に緊張していて掌は汗ばみ頭だけがぶわりと熱くなった。熱を持った瞳は瞬きすると涙が出そうになる。なんてことはないのに、言葉に感化されてもいないのに。

「楽な生き方を選んだことを責めたり出来ねえよ。逃げ道だなんて言ってもそれが一番いいなら、俺はそのままがいいと思う」

嗚呼
諦めかけた頭の隅っこで息を吐く。本当に、奥村くんは恐ろしい人だと思った。容認してしまえるのか。ここで頷けば彼は満足げに笑うのだろうか。とてもとても優しく、広く、大きな人だと思った。同時にそれは自分にとって長所にはなりえないのだと感じた。さっきから押し寄せるのは多大な劣等感だ。自分を誤魔化したりはしない、出来ないほどはっきりと認識した。凄いと思う反面狡いとかもう嫌だとか離れて関わりたくないだとかそんなことも思っている。浅ましく卑屈な面を背負って対面する苦痛を、彼は果たして感じたことがあるだろうか。

「でもそれが苦しくなったら、苦しいんだったら」

ほらまたこうして彼は道を示す。俺がどうにも出来なくて動けなくて蹲っている場所を見下ろして、簡単に糸を垂らす。奥歯を噛み締めていたから少しだけ口を開けた。声は出ない。何を言えばいいと言うんだろう。そんな優しげな笑みを浮かべる彼に、何が言えるだろう。

「何でもいいから合図してくれ」

救ってくれるとでも言うのだろうか。君にこんなに辟易しているのに、それでも許して救ってくれるというのだろうか。そうだと言うのなら、賞賛を贈りたい。君は愚か者だ。



まるで神様みたいだね


そんな君に縋ることしか出来ないけれど



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