「……ん、ぁっ、ぁっ……っ」 暗い部屋に響く悩ましい喘ぎ声。月明かりに照らされた肢体が艶めかしく波打つ。 柔らかな奥を穿ちながら、仁王は自分の限界を感じた。柳生の中は心地良い。加えてそんな姿を見せられて、そんな声を聞かされて、我慢できるわけがない。 柳生の顔にかかる髪を払ってやれば、切なげな瞳がこちらを見ていた。 「仁王、君……」 そんな瞳で見ないでほしい。壊してしまいたくなるから。 「ゃっ、あぁ……っ!!」 「一緒にイくぜよ、やーぎゅ」 耳元で囁けば、柳生の中はきつく絡んでくる。激しい抽挿に耐えながら縋る柳生にキスをして、仁王はその熱い中に欲を吐き出した。 仁王は不意に目を覚ました。 真っ暗な闇が支配する時刻。先程と変わらぬ月明かりだけが、部屋の中を照らし出していた。 特に何かがあったわけではない。ただなんとなく。なんとなく目が覚めてしまった。 ふと隣に目を向ければ、柳生の姿。つい数時間前はあんなに乱れていたというのに、今はいつもと変わらず深い眠りの中にいる。 いや、少し違う。 普段はまるで死んでいるかのように仰向けに眠る柳生が、今はその腕を仁王の腕に絡めて寄り添うようにして眠っている。 無意識か、それとも故意か。どちらでも構わないが、そんな柳生が堪らなく愛しく思えて仁王は思わず笑みを零した。 「寝てる時は素直じゃな、柳生」 さらりとした髪を撫でるが、柳生が目を覚ます気配は無い。一瞬だけ考えて、仁王は柳生の髪にキスをした。 そうしてしまえばそれだけでは治まらず、柳生を抱き寄せる。もう一度髪に唇を落とせば、柳生らしいシャンプーの香りが仁王の鼻腔をくすぐった。 柳生とは中学以来の付き合いだ。長い付き合いであるしその関係も途中から少しずつ変化していったが、それでも仁王の気持ちは変わらない。こういう関係になって何度肌を重ねようとも、全く飽きないのだ。 それでも過去、何度か浮気した事はあった。若気の至りと言ってしまえばそれまで。そしてその度に柳生を傷付け、別れ話をした事もあった。 けれど柳生は仁王を許すし、仁王も結局は柳生の元に戻って来る。柳生でなければ無理なのだと気付いてからは、それも無くなった。 それだけではない。いろいろな面で柳生には迷惑をかけた。よくまぁ見限らずに一緒にいてくれるものだ。 そう考えたら嬉しくなって、仁王は再び柳生を抱きしめた。腕の中の柳生が、苦しげにもぞもぞと動く。 「にお、くん……?」 「起こしたかの? ごめんな」 「いえ……」 寝ぼけているのだろうか。ぼんやりとしたまま、柳生は身じろぎをして仁王の背中に腕を回した。 「仁王君の匂いがします……」 瞳は閉じたまま。しかし鼻先を仁王の胸板につけるようにして、柳生は静かに呟いた。 半分は夢の中にいるせいだろう。どこか舌っ足らずな声音が幼さを感じさせて、なんだか可愛い。優しく笑っているように見えるのは、仁王の気のせいだろうか。 「夜明けにはまだ早い。寝ときんしゃい、やーぎゅ」 「仁王君は……?」 「俺も寝るから」 コクリと頷いた柳生から再び寝息が聞こえるまでに、数秒とかからなかった。寝る前の情事で疲れているはずだから、無理もない。 風邪をひかないようにと布団を掛け直して、改めて柳生を抱き込む。その確かなぬくもりを感じながら、仁王はゆっくりと瞳を閉じた。 |