テーブルの上には色とりどりのフルーツとマシュマロ。

傍らには溶かした温かいチョコレート。

そして隣には眼鏡紳士・柳生比呂士。

イチゴをフォークに刺して、柳生は溶かしたチョコレートにそれを浸した。引き上げたイチゴからはチョコレートが滴り落ちて──……





チョコレート・フォンデュ






「やーぎゅ」


イチゴを口に運ぶ手が止まり、その視線がこちらへ向く。呆れたような視線には構わず、俺は笑みを浮かべて口を開けた。


「……自分で食べれば良いじゃないですか」

「柳生に食べさせてほしいんじゃ。だってバレンタインの代わりじゃろ? ただでさえ柳生、手抜いたくせに……」

「手を抜いたわけではありません、失礼な。チョコフォンデュというのも楽しいかと思ってそうしたのに……もういいですよ。私一人で食べますから、食べたくないなら食べなければ良い。金輪際、仁王君には何もあげません」

「あー、あー、あー……悪い、柳生。俺が悪かったから機嫌直しんしゃい。うん、チョコフォンデュも美味いから!! 楽しいから!!」


マシュマロをチョコに浸して食べる。うん、美味い。嘘じゃないぜよ。ただ……やっぱり物足りん。こういうのは互いに食べさせ合うのが決まりじゃろ。


「柳生……」

「食べるなら自分で食べてください」


キッパリと言われて俺は、はい、と呟くしかない。さっきみたいに食べるなと言われないだけマシかもしれん。

そもそも悪いのは、やはり俺じゃ。せっかく用意してくれた物を“手抜き”と言われれば、いくら優しい紳士様でも怒るのが普通。もう少し考えてから物を言えば良かったと思っても、それは後の祭り。

……とはいえ、いつまでもこのままというのも味気ない。せっかく二人きりでいるのに、悪い空気のまま終わらせるつもりは無い。


「そうじゃ、柳生。俺が食べさせてやるぜよ」

「結構です」

「遠慮せんで……」

「結構です」

「柳生、お茶いらん?」

「結構です」

「あ、紅茶あるぜよ。姉貴のじゃけどお前好きじゃろ?」

「結構です」

「レモンティーにしたら美味いと思……」

「結構です」

「ミルクティー……」

「結構です」

「コーヒーとか……」

「結構です」

「……チョコフォンデュ、食べて良いかの?」

「どうぞ御勝手に。えぇ、もう勝手にしてください。仁王君なんて知りません」

「勝手、な……」


その時の俺の声音の変化に気付いたのか、雑誌に目を落としたままだった柳生がふと顔を上げた。訝しげに眉を寄せて、俺を見やる。

そんな柳生に、俺はニヤリと笑ってみせた。










「ぅあっ、……やめなさい、……っ、仁王君!!」

「嫌じゃー」

「こういう事は、んっ、……両者の了解があって初めて……っ、成立、するものでしょう!?」

「勝手にしろ言うたのは柳生じゃ。だから勝手にしとるなり」

「仁王君、ぁっ……貴方、バカですか!?」


頬を染めて柳生が睨んでくる。悪態をつきながらも時折切なそうに眉を寄せる姿が可愛くて、俺はその唇にキスをした。一度では足りず、何度も何度も。

そんな俺から逃れようと、柳生は顔を逸らす。そのせいで晒された首筋を舐めあげるとまたピクリと反応するから、やっぱり柳生は可愛い。

首筋に一つ赤い痕を残して、俺はその痕をいたわるように唇で触れた。



- -


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -