「さすがに人が多いですね」

「年越してすぐじゃからの」


1月1日午前0時過ぎ。年明けと同時に柳生の家に行って、そのまま近くの神社に初詣に来た。

普段はほとんど人がいない境内も、今日は大勢の人が溢れかえっている。参道沿いに連なる露店も相まって、大賑わいじゃ。

正直、人混みは苦手じゃが、実はそう悪い事ばかりでも無い。

はぐれないように──という口実で柳生と手を繋いだのはつい先程の事で、こうやって手を繋いで歩くのは初めてだ。今も繋いだままの手が、暖かい。


「でも良かったです」


ポツリと柳生が言った時、見知った顔を視界の隅に捉えた。

幸村と真田。

幸村は露店に夢中になっていて気付いていないようだが、真田とは目が合った。その妙に貫禄のある顔が、意外そうな表情を作る。


「何がじゃ?」


真田を視界の隅に映したまま、俺は柳生に問うた。真田は相も変わらず、無遠慮にこちらを見ている。

……あんまり余所見してると幸村の機嫌損ねるぜよ、真田。新年早々、喧嘩は御免じゃろ?

そういうところを、真田は分かっていない。


「仁王君と……こうやって一緒に新しい年を迎える事ができて」


少し照れたように、柳生が言った。たぶんこちらも幸村達には気付いていない。

間髪入れず、俺は柳生の手を引いて抱き寄せた。

人が多すぎてただでさえ身動きができない状態に、柳生はされるがまま。ただその胸の鼓動だけが、急激に速くなったのが分かった。


「俺もじゃ、やーぎゅ」


照れながらも俺に思いを伝えるその姿が可愛くて、俺は柳生の唇に自分のそれを重ねる。驚いて動けない柳生の唇を、ペロリと舐めてやった。

見る間に真っ赤に染まっていく柳生が、とっさに右手で顔を隠す。

柳生に気付かれない程度に一瞥した先には、未だにこちらを見ている真田の姿があった。


「に、仁王君──!!」

「顔が赤いぜよ、やーぎゅ」

「だ、誰のせいですか!! ……というより公衆の面前でそういう事はやめてください!!」

「柳生が可愛いから悪いんじゃー」

「どういう理屈ですか、それ!!」

「大丈夫じゃて。これだけ人が多いんじゃ。誰も俺達の事なんて見とらん」


──1人を除いて。

ニヤリと笑って真田の方を見やれば真田は固まってしまったようで、そんな真田に幸村が何やら声をかけているのが見えた。

無遠慮に人を見るから悪いんじゃ、真田。


「もうしないでくださいよ、仁王君」


そう言いながらも手は繋いだままだから、やっぱり柳生は可愛い。

はいはい、と適当に相槌を打って、俺は柳生に気付かれないよう真田に手を振った。







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