──23日〜25日まで部活は休みにします。俺に感謝しつつそれぞれ三連休を楽しんでね。By 偉大なる部長 手にしていた書類を思わず落としてしまったのは、直後の事。いつもの如く部活に来たら、部室のドアにこんな貼り紙がしてあったのだから。 「うわー……何つーか部長らしいっすね」 「部長らしい云々の問題ではないぞコレは」 「まぁ良いんじゃないすか? 皆嬉しそうだし」 確かに部員達は嬉しそうに帰っていく。その中に比呂士の姿が見えないのは、とうに帰っているからだろう。いつもなら既に来ている時間だから。 そして弦一郎は──…… 「けど副部長は怒りそうっすね。うわぁ……とばっちりは勘弁!!」 「安心しろ。弦一郎は精市と一緒だ。今頃は二人揃って関西だろう」 「……へ?」 「昨日メールが来た。夜景のキレイな場所を教えてくれ──と、弦一郎から。まさかこういう事だとは思わなかったが」 「あ、そういう事すか」 無愛想な堅物が何事かと思えば……お前なりに考えた結果だったのか弦一郎。 精市が納得するかは分からないが、せめて努力を認めてもらえると良いな──俺達や部員のためにも。精市の機嫌を損ねると後々の部活にも影響するから、正直面倒くさい。 「あー……けど時間が空いちまいましたね。どうします、柳さん?」 「どうもこうもない。適当に……」 「あ、じゃあ柳さん。うちに来ません?」 ニッと笑って、赤也は続ける。 「クリスマスパーティーしましょうよ!!」 「メリークリスマス!!」 クラッカーの盛大な音と共に飛び出す、カラーテープ。飾り付けられた壁や窓と、一層の雰囲気を醸し出すクリスマスツリー。 「やっぱクリスマスといえばパーティーっすね、柳さん!!」 「あぁ、そうだな」 部屋の主である赤也は本当に楽しそうで、先程から笑顔が耐えない。 無論、俺だって楽しい。赤也と一緒にクリスマスが過ごせる事、赤也が笑ってくれる事が本当に嬉しくて仕方ない。 ──これで赤也と二人だけならば文句無しだが、残念ながらそうではない。 「このチキン美味そう!! ケーキもサンドイッチもローストビーフも……なぁ、俺全部食べて良い!?」 「腹壊すぞ、ブン太。切り分けるからとりあえず座れ」 赤也の母親が作ってくれた御馳走によだれを垂らすブン太と、保護者よろしく世話をするジャッカル──邪魔者二人組も一緒だから、ムードもクソも無い。 ジャッカルが切り分けたローストビーフに手をつけながら、今日何度目か分からない溜め息をつく。自然と零れるのだから仕方ない。 「お前の母ちゃん、料理上手いのな赤也。俺にくれ」 「ちょっ、なんで人の母親取ろうとしてんすか丸井先輩!!」 「あ、でもケーキは俺の方が上手いかも。甘さが足りねぇだろぃ」 「それ先輩の好みでしょ」 「おぉ!! ジャッカル、これ!! これ食え!! マジで美味い!!」 「分かったから食べながら喋るな、ブン太!!」 騒がしいのはいつもの事。本当に、これでは部活の時間と何ら変わりない。 パーティーをしようと誘われた時、俺は赤也と二人なのだと思っていた。そして赤也の家に着いてみたらジャッカルとブン太がいたのだ。元々三人でクリスマスパーティーをする予定だったらしい。 「んな不貞腐れた顔すんなって柳。赤也と──うわっ!!」 「あぁ、悪いな。手が滑った。いや、悪気は無かったんだ」 俺が投げた──ではなく、手を滑らせた事で跳んでいったクッションが、ブン太の顔にクリティカルヒット。 いや、本当に悪気は無かったんだ……たぶん。 「あーあ、良いなぁ……幸村君達。お土産買ってきてくれねぇかな?」 「弦一郎次第だな」 「気の効いた事なんかできなさそうだな、真田のヤツ。不器用すぎる」 「そう言ってやるな、ジャッカル。アイツなりに頑張っているようだからな」 「なぁなぁ、関西って何か美味いもんあったっけ? 八つ橋、たこ焼き、明石焼きに……」 「さっきから食い物の話ばっかっすね、丸井先輩。食ってばかりだとブタになりますよ」 「あぁ、お前は少し体重を落とした方が良いな。ペットの管理がなってないぞ、ジャッカル」 「……って俺かよ!?」 「待てよ、柳。ペットって何だよ!! まさか俺!?」 「アンタ以外いないっしょ、丸井先輩」 「……んだと赤也のくせに!!」 ぎゃあぎゃあ騒ぐブン太と赤也を横目に、グラスに口をつける。一見シャンパンにも見えるコレの中身はシャンメリー。 なんだかんだで俺達は中学生だからな。弦一郎や比呂士達と一緒にいるとたまに忘れそうになるが……俺達は未成年なのだ、信じられない事に。 ピザを取ろうと手を伸ばすと、気付いたジャッカルが取ってくれた。さすがジャッカル。気が利く。 が、しかし。 「悪いな、柳。本当なら今頃赤也と──ぶっ!!」 妙なところで空気が読めないらしいジャッカルには、俺の鉄拳をプレゼント。感謝する事だな。 「ま、来年こそ頑張れよ。あの仁王ですら上手くいったらしいぜ?」 「……雅治が?」 雅治が比呂士に片思いをしていたのは知っている。比呂士は比呂士で満更でもないらしく、いわゆる両片思いだった。 けれど雅治が奥手のようで、ずっと進展は無し。それでも比呂士は懸命に動いていたのだが、それに気付く様子も無かった。 「ブン太のところにメールが来てた。仁王っつーか……どうも柳生が頑張ったみてぇだな」 「……だろうと思った。意外と行動力があるからな、比呂士は」 「だからさ、お前も頑張れよ」 な?、と笑いかけてくるジャッカルに、お前こそ頑張れよ、と返してやりたかったが、面倒くさいのでやめておく。 それに。 「皆で騒ぐのも嫌いではない。これはこれで楽しいぞ」 「……本当かよ。お前笑いながら開眼してるぞ?」 怖ぇ、と肩を竦めるジャッカルを無視して、俺は赤也の皿にあったケーキをつまむ。 皆で騒ぐのが嫌いではないのは、俺の本音。皆が楽しんでいるならば、それで良いと思う。 騒がしいくらいが、きっと立海にはちょうど良いのだ。 「あぁ!? 俺のケーキが消えた……丸井先輩!!」 「俺じゃねぇよ!! 冤罪だろぃ!!」 「赤也ー。お前のケーキな、さっき柳が食ってたぞ」 「そんなぁ……酷いっす、柳さん」 「食われる方が悪い。何事も油断大敵だろう、赤也」 「なんで自分がやった事正当化してんすか。最低っす柳さん!!」 「よし、じゃあお前のケーキは俺が食ってやるよジャッカル!!」 「なんでそうなるんだよ」 「ぐだぐだ言ってねぇで寄越せ──!!」 ……訂正。 少し騒がしすぎる気がする。 Merry Christmas! |