「のう、柳生。俺いっつも言いよったよな? 何て言ったかのう?」

「一人で、……っで、出歩くな、と……」

「そうじゃな。ならなんで一人で出かけたりした?」

「この前の子の、ケガの具合が……心配で……ぁっ」

「あぁ、丸井が拾ってきたあの子な? どうじゃった?」

「随分、良くなってましたよ……っ、もうやめてください、仁王くん……んぁ、ふっ、ぁ……!!」

柳生の中にある玩具が、低く唸る。窓一つ無く、配管が剥き出しになったこの部屋に響くのは、玩具のくぐもった音と柳生の喘ぎ声だけ。

その柳生はと言えば、天井から吊されたロープで後ろ手に縛られ、全裸で膝をついた姿のまま快感に耐え続けている。

これは、柳生へのお仕置き。


「良かったのう、ケガも大した事なくて。けどな、柳生。一歩間違えばお前が死んどったの、分かっとる?」


こくこく、と柳生は何度も頷くが……実際は分かってないだろう。本当に分かっているのなら、一人で出歩いたりしないはず。





──この街の事を、きちんと理解しているのならば。





ここは“第参区”。地図にも載っていない無法地帯──繁栄の裏に隠された、スラム街。

ジャンキーや犯罪者、多くのならず者がはびこる街であり、そういう連中に捕まれば大人も子どもも、男も女も関係ない。人身売買や薬を始めとした犯罪の餌食となり、最悪の場合は殺されてしまう。

一般人はおろか国家権力すら介入しようとはしない、本当に行き場を無くした者達だけが流れ着く街だ。

そんな街を、比較的キレイな顔立ちをした柳生が一人で歩けばどうなるか──なんて、考えるまでもない。


「泣くな、柳生。お前が悪いんじゃろ?」


快感のせいか、それとも羞恥のせいか、柳生の頬を涙が伝う。

柳生の泣いた顔は嫌いじゃない。そそる。けれど今はそれを楽しんでいる場合ではない──いや、半分楽しんどるが。


「お前本当に分かっとる? 今日じゃって後ろにおったヤツに気付かんかったじゃろ」


ここで出会った何人かとチームを組んだ俺は、このビルの近辺を縄張りとして動いている。そして昼間、この辺りでトラブルが無いよう見回りをしていた俺の目に飛び込んできたのは、一人で路地を歩いている柳生とその背後で柳生の様子を窺う男の姿。

売買目的か暴行目的かは分からないが、柳生を狙っていたのは明らかだった。

思い出したら腹が立ってきたのう……。

俺は手にしていたナイフを柳生の頬に当てた。鈍く輝く銀色に、快楽の中にいた柳生の顔が一瞬、恐怖に彩られる。


「俺がおらんかったら柳生、今頃死んどってもおかしくないぜよ」


昼間の事を思い出したのだろう。俯いた柳生が、僅かに唇を噛むのが分かった。

昼間の事──柳生の背後にいた男は、俺の姿を見るなり逃げていった。そして柳生は真っ青になった。見つかった自分がどうなるか、分かっているから。


「ごめんなさい、ごめんなさい仁王くん……ふぁ、んっ……ごめん、なさい」

「何回言うても分からんからのう、柳生は。こうやって身体に覚えさせるしかないじゃろ?」

ナイフの腹が胸元を滑った時、柳生の身体がピクリと震えた。しばらくそこを弄ってやれば、勃ち上がった柳生のソレが震えるのが見えた。

けれど柳生は、達する事ができない。最初に達しそうになった時に、俺が根元を縛ってしまったからだ。


「ごめんなさい……っ、私が、悪かったです……だから、もう、許して……やぁぁぁっ!!」


俺が玩具を更に奥に押しやった事で、感じる部分に当たったのだろう。ついでに根元を縛るヘアゴムを外すと、柳生は一際大きな声を上げて身体を仰け反らせた。一気に解放された白濁が、弧を描いて飛び散る。


「あーあ、気失っとる……」


スイッチを切って玩具を取り出してやるけれど、柳生からの反応は無い。


「自分の身を守れるようになったら一人で出歩いても構わんけど……今はまだダメじゃ、柳生。普通の人間とは違うんじゃから、自覚しんしゃい」


ロープを解いて、倒れかけた柳生の身体を支えてやる。頬を濡らす雫を舌で拭うと、俺はその唇にキスをした。


「俺にはもう、お前しかおらんからのう……」


“家族”と呼べる全てを失った俺にとって、柳生は唯一無二の存在。何よりも、誰よりも大切な、たった一人の存在。

だから、失いたくない。嘘のように聞こえるかもしれないが、これは本心。俺の本音。

けれどこの街の環境を考えればそれは容易では無くて、一刻の油断が全てを失うきっかけとなる。それでもこの街以外に行き場が無くて、俺達はここで生きている。


「じゃから、勝手にいなくならんで……柳生」


目が覚めたら甘やかしてやろう。柳生が望むようにして、ケガをしたあの子を共に見舞うのも良い。こんな泣き顔より、笑顔が見たい。とにかく思いきり甘やかすつもりだ。

腕の中の柳生を見れば、自然と笑みが零れてしまう。その茶色っぽい髪を梳いて、俺はもう一度その唇にキスをした。



















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