大人買い。


 シャワーを浴びてケータイを開いてみれば、メールが一件きていました。恋人である仁王くんからのメール。多少なり嬉々としながら開いたそれに、私が呆気に取られたのは直後の事です。

 忘れていましたが、私の恋人はどうしようも無いバカでした。





from 仁王雅治
sb 無題

ゴムの新製品見つけたから買った。無くなってたからちょうど良いじゃろ?今からそっち行く。

ちなみに一箱12個入りでとりあえず10箱買っていく。今夜は心配しなくて良いぜよ。





 ……心配って何の心配ですか? ナニの心配ですか?

 そしてもしかしなくても大人買いってヤツですか? 所謂大人買いってヤツですよね?



……………………。



 え、つまりゴムを大人買いした恋人──もとい変態が今から部屋に来るらしいって事ですか? ちょっと頭が理解する事を拒否しているのですが、つまりそういう事ですよね?



私、ピンチです!!



 本当バカですよね。普通やりますか、アレを大人買いだなんて。恥ずかしくて無理ですよね。店員さんに白い目で見られる事間違いないですよね。「うわー、なんでこの人アレを大量に買ってんだろ。変態? これ全部使うつもり? でもそれ羨ましいかも」とか思われるんですよ、きっと。……おや、後半は何故おかしな事に?



 とりあえず私、どうすれば良いのでしょうか?身の危険を感じます。

 あぁ、そうですね。鍵をかければ良い……いえ、彼は合い鍵を持ってましたね。何故渡してしまったのですか、過去の私!! 彼の場合勝手に合い鍵作ってしまいそうですけどね、しかも自力で!! きちんと型取ったりして!!

 ……えー、それではチェーンをかけておきましょう。仁王くんはどこから入ってくるか分かりません。以前はベランダから入ってきた事もありましたからね。窓にも鍵を……ですが全てに鍵をかければ当然インターホンを鳴らすでしょうし、居留守を使えば騒ぎ出すでしょう……それは近所迷惑ですよね。

仕方ありません。仁王くんが部屋に入る事は甘んじて許しましょう。ですが私の身の安全はやはり確保しなければなりません。

 ではとりあえず私が出て行く事にしましょう。行き先は……そうですね、柳くんの家が無難でしょうか。電話でもしてみますか。


『比呂士か。こんな時間にどうし──』

「夜分遅くにすみません、柳くん。しかし今からアレを大人買いした変態が部屋に来るのです。助けてください」

『……は?』

「アレを大量に手にした変態が私の部屋に来るのですよ。私、ピンチです。貴方の親友は人生最大のピンチに陥っているのです。これは何の詐欺ですか?」

『……お前の親友を今すぐやめても良いだろうか?』

「冗談ではありませんよ、柳くん!! 私は本当に困っているのです!!」

『そうは思えないが……しかし比呂士、とりあえず今からお前の部屋に来るのは仁王なのだな?』

「ただの変態ですがそうとも言いますね。今から柳くんのお家に……」

『悪いが俺は今親戚の家にいる。すまないが他を当たってくれ』


 それだけを言うと、柳くんは切ってしまいました。全く、他人事だと思って……。

 しかし柳くんがダメとなると他には……──次の相手に電話しようとしたところで、私のケータイが鳴りました。


『ちなみに弦一郎はやめておけ。今日は精市が行くと言っていた。お前がアイツ等のそういう声を聞きたいなら止めないが──』


 柳くんが何か言いかけてましたが反射的に切ってしまいました。でも分かりました、柳くん。真田くん幸村くんには電話しません。えぇ、しませんとも。

 こうなるとジャッカルくんのところ……には丸井くんが行ってそうですね。あぁ、いるじゃないですか、一人。柳くんが親戚の家にいるのなら──……


『赤也はダメだぞ、比呂士』

「……先にこちらからかけておいて難ですがいきなり電話かけてくるのやめて頂けますか、柳くん」

『赤也はまだ子どもだ。自分の欲をコントロールできない。衝動的に相手が誰であろうともそういう可能性が十分にある。いいか、赤也はダメだ。絶対にダメだ。いいな、比呂士。赤也だけは──』


 再び切ってしまいました……が、一つ分かった事があります。いえ、前々から分かってはいたのですが、何と言うか──……


「愛されてますね、切原くん」

「そんなところで何しとるんじゃ、やーぎゅ?」

「ひぃぃぃぃぃ!!!! にににににおうくん、いつの間に!?」

「さっき。ちなみに玄関から入って来たナリ……それより、上着も着んで俺を待っとるなんてヤル気満々じゃの、やーぎゅ」

「こ、これはさっきシャワーを浴びていただけで別に……ゆっくり近付いて来るのやめてもらえますか、仁王くん。怖いです。気持ち悪いです。……と言うか仁王くん、本当に買って来たんですか?」

「おん。ちゃんと柳生のために買ってきたぜよ」

「何が私のためですか!! 仁王くんが使いたいだけでしょう!?」


 軽くキスをしながら抱きついてくる仁王くんをあしらいながら、私はのしかかってくるその身体を退けようとしました。しかしピタリと動きを止めた仁王くんは、そのまま動こうとしません。

 一体どうしたのかと彼の顔を覗き込んだ私が嫌な予感を感じた時には既に遅し。キラキラと目を輝かせた仁王くんが、再び私に抱きついてきました。


「そうかそうか。柳生は生が良かったんじゃな」

「え、ちょっ、どうしてそうなるんですか!?」

「ごめんな、今まで気付かんで。俺、柳生に喜んでほしくていろいろ考えとったんじゃけど、大切な事忘れとったな。お前の気持ちじゃ」

「……何かよく分かりませんが、とりあえず仁王くん、離れたまえ。ちょっ、触らないでください!! やめたまえ!! やめたまえ、仁王くん!! やめたまえぇぇぇぇぇ!!」

















人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -