仁王くんが、足りません。



 どうしてこうなってしまったのか──なんて、考えるまでもない。天井を背景にして自分を見下ろす彼を見て、柳生は深々とため息をついた。


「なんじゃ?何か言いたそうじゃの?」

「いえ、別に。ただ何というか……凄く単純ですね、仁王くんは」


 単純、と言われて仁王は沈黙する。自分の考えは、どうやら的を射抜いていたようだ。

 事の発端は部活後の事。柳に借していた本を返してもらうため、彼の家に行った──と、ただそれだけの事。

 本について多少話はしたが、すぐに柳の家を後にした。しかしそれこそが仁王の行動の一因である事は間違いない。

 仁王の左手が、柳生の柔らかな髪を撫でた。


「別に……柳くんとは何も無いですよ?」

「分かっとるよ、何も無い事くらい」

「だったら──」

「──あんな、柳生」


 ゆっくりと滑る左手が、柳生の髪を弄ぶ。慈しむようなその動きがなんとなく気持ち良くて、柳生は静かに目を閉じた。


「俺より先に柳と二人きりにならんでも良いじゃろ?」

「……何も無くても?」

「何も無くても」


 何の前触れも無く眼鏡を取られたかと思えば、露わになった額に仁王の唇が触れる。そこから伝わるほんのりとした暖かさに、自分の頬が僅かに火照るのを感じた。

 同時に、可愛いなと思った。整った顔立ちはもちろん、どこか妖しげな色気があって大人っぽい仁王の、単純な独占欲を隠しもせずに出すという子どもっぽさが。

 不意に湧き上がって来た笑みはそのままに、柳生は仁王の頬を両手で包んだ。


「最後に触れたの、いつでしたっけ?」

「一週間前。テスト前の最後の部活の時以来じゃの」

「たった一週間なのに……もう足りませんか?」

「足りんな。柳生欠乏症」


 柳生の唇を、仁王はペロリと舐める。猫のように何度かそうして、一度だけ唇を重ねた。

 羽のような、軽いキス。
 触れるだけの、優しいキス。

 そのキスからは、仁王の気持ちが感じられた。そんな風にされては適当に言い訳をして逃げるわけには行かないではないか。


(ま、元よりそんなつもりは無いですけどね……)


 結局は自分も仁王と同じ気持ちなのだ。仁王の想いに応えるように、柳生は彼の首に腕を回す。



“仁王くんが足りません”



奇遇ですね。私も仁王くん欠乏症のようです。















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