星を見に行きたいです――どこか出掛けようという話になって、そう言ったのは柳生だった。 ※ ※ ※ 地元では有名な展望台。山の開けた場所にあるここは、星を見に来る人も多い。けれど今は、真夜中。日付はとうに変わっている。こんな時間には、さすがに誰もいない。 あれがベガで、あれがデネブ――柳生はさっきから夜空を見上げて楽しそうに話している。今日は空気も澄んでいて星もいつもより綺麗に見えるから、柳生自身、高揚しているのだろう。 仁王としては、そんな柳生が可愛くて仕方ない―――これはいつもの事であるが。けれどこんなにも喜んでくれるなら連れて来た甲斐があるというものだ。 「聞いてますか、仁王君?」 「聞いとるぜよー」 「聞いてないですね」 怒った顔も可愛い――なんて言ったら柳生が怒るから、絶対に言わない。 そう、何かに夢中になっている柳生は可愛い。怒った顔も可愛い。でも可能な限り笑顔でいて欲しい。でも――…… 次々と感情が沸き上がってきては、仁王を支配していく。全部、柳生のせい。それすらも嬉しく思える自分はもうビョーキなのかもしれない、と仁王は独り苦笑した。 「……気持ち悪いですよ、仁王君」 「失礼な。いきなり何じゃ?」 「先程から顔がにやけています。気持ち悪いです」 「柳生が可愛いからいかんのじゃ」 「わっ! 仁王君!?」 無意識に頬が緩んでいたのだろう。隣に座った柳生を、仁王は抱き込んでしまう。 顎を掬って軽くキスをすれば、その頬が赤く染まっているように見えた。 「な、なんですか突然……」 「やーぎゅ」 「仁王君!?」 楽しげに笑いながら、柳生を自分の膝の間に座らせてしまう。向かい合う形で抱き寄せると、その首筋に唇を落とした。 「……っ、仁王君」 「好きじゃよ、やーぎゅ」 「……知ってます」 「柳生は?」 「……確認するんですか、今更?」 「確認したいんじゃ、今更」 何度でも聞きたいじゃろ――仁王がそう言うと、柳生は呆れたようなため息を吐いた。 「好き、ですよ……たぶん」 「たぶん、て何じゃ」 「いいじゃないてすか、別に。ほら、もう話してください。せっかくですからもう少し星を……っ!?」 「柳生は星見よったら良い」 俺は勝手にするナリ――言った仁王は、今度は柳生の耳元に唇を落とした。それから何度かそこを啄んで、首筋に舌を這わせる。 「こんなんじゃ……っ、見れません、仁王君!」 「ん? 気にしなきゃええじゃろ」 「気にするなって……無理ですよ、仁王君」 すがるように抱きついて来た柳生が、当たってます……、と小さな声で言った。 「何が?」 「……っ!」 とぼけて見せれば、不本意とでも言いたげな顔で睨み付けてくる柳生が、更に仁王を煽る。 口許に笑みを刻んだ仁王がその顔をしばらく見つめても、柳生は恥ずかしそうにするだけで決して逸らそうとはしない。それから唇を寄せると、静かにそれを受け入れた。 唇は触れたまま、柳生の手を取る。 その手を下の方に導いて、僅かに兆し始めた柳生と仁王を包み込んだ。驚いて引こうとした柳生の手を、力でねじ伏せる。 そのまま2つを一緒に上下すれば、柳生が息を飲むのがわかった。 徐々に固くなっていくのがわかる。もちろん、柳生にも伝わっているはずだ。あとはどこまで柳生が我慢できるか、であるが――…… 「仁王、君……」 「ん?」 「帰りませんか……? 少し寒くなってきました」 「熱く、の間違いじゃろ?」 「違います!」 「どっちでも良いけどこのままってのは辛いじゃろ?」 「……ぅっ、ぁ……っ」 先端に触れてやると、柳生は恨めしそうに睨んでくる。けれどそれもつかぬ間の事で、すぐに仁王を求めるように唇を掠めとる。少しずつ深くなっているそれが、柳生の答え。 「柳生、どうしてほしい?」 意地悪く耳元で囁いても、柳生は何も言わない。 この素直じゃない柳生をどう陥落させるか――仁王はそれだけを考えながら、上下する手を止めようとはしなかった。 星は、相変わらず静かに輝いている。 |