「バレンタインのお返しナリ」


そう言って仁王から受け取ったプレゼントらしき包みを開けて、柳生は絶句した。中から出てきたのは真っ白なエプロン。たくさんのフリルが可愛らしいそれを、間髪いれず、柳生は容赦なく仁王に投げつけた。


「なんですか、これは」

「見ての通り普通のエプロンじゃ。柳生に似合うち思ったんに……酷いのう」

「君の魂胆なんて分かりきってます」

「ほう、どんな魂胆じゃ?」


投げ捨てられたエプロンを拾いながら、仁王がニヤリと笑う。埃を払う素振りをすると、それを広げて見せた。


「裸エプロンでしょう? ベタですね。仁王君は単細胞ですか?」

「相変わらず可愛くないのう……昔は少しくらい恥じらいもあって可愛かったのに」

「可愛くなくて結構です」

「そもそも裸エプロンなんか知ってたんか」

「以前AVで見ました」


柳生がさらりと言うものだから、仁王は口にしたコーヒーを吹き出しそうになる。そんなものとは無縁と思っていたが、見た事はあるらしい。一人で見る柳生も、誰かと見る柳生も、想像すらできないが。しかし柳生とて男だ。見たとしても何らおかしい事はない。いや、しかし柳生のイメージが……

仁王のそんな気持ちを知ってか知らずか、柳生は何事も無かったかのように続けた。


「どこが良いんでしょうね、アレ。ただの変態じゃないですか。する方も、それを見て喜ぶ方も」

「うわー……お前今、結構な人数を敵に回したぜよ」

「……アレが好きな方、多いんですか?」

「少なくはないじゃろ」

「まぁSMが好きな方もいますしね、嗜好は人それぞれという事ですか……何してるんですか、仁王君。離れたまえ」

「一回やってみたら理解できるかもしれんぜよ、柳生。じゃから脱げ」

「脱げと言われて脱ぐわけがないでしょう」

「じゃから力ずくで脱がす」

「仁王君!」


シャツに手をかけて脱がせてしまえば、勝ったも同然。そもそも前開きのシャツを着ていた時点で柳生の負けは確定していた。ボタンを外す事など、仁王には容易い事。

逃げようとしていた柳生を床に押し倒してしまうと、今度はジーンズに手をかけた。


「そういえばSMも楽しそうで良いのう。さすがに手錠は無いが……やってみる?」


そう言って奪ったシャツをちらつかせれば、柳生に思い切り睨まれた。容赦ない、軽蔑の眼差し。

しかし寛げたジーンズの中で柳生に触れながら首筋に舌を這わせれば、柳生が小さく息を飲むのが分かった。柳生を最初から開発したのは仁王だ。その思考も、感覚も、全て知っている。

舌先で耳を愛撫すると、仁王の手の中にいる柳生が僅かに反応する。メガネを奪うと、仁王は低い声音で囁いた。


「裸エプロンとSM、どっちが良い?」

「どっちも嫌……ぁっ」

「どっちか、選びんしゃい。選ばんなら放置じゃな」


それはそれで楽しそうじゃな──仁王がニヤニヤと笑うと、柳生は悔しげに唇を噛んだ。

聡い柳生は、話が早くて助かる。


「痛いのは嫌です……」

「じゃあ放置?」

「……」

「決まりじゃな」


仁王の勝利が確定した瞬間だった。











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