年末のこの時期は忙しい。いや、年末とは関係なくいつも忙しいのだが、忘年会やら何やらで特に忙しくなる。帰宅が真夜中……なんて当たり前。

ところが今日はいつもより少し早く帰る事ができた。日頃の行いが良いからだと、柳生は自分の中で結論付けて帰路に着く。

途中、街を彩るイルミネーションに今日がクリスマスである事を思い出した。日頃の忙しさで、そんな事すら忘れていたのだ。

気分だけでも、と柳生は通りかかった店に立ち寄ると、シャンパンを購入した。すると誰かと共に開けるのだと思ったのだろう。店員が気を利かせてクリスマス用のラッピングをしてくれた事に苦笑する。そんな相手、もう何年もいないというのに。

数年前までは、柳生にもクリスマスを共に過ごす相手がいた。中学からの付き合いであり恋愛関係にもあった、素の自分を晒せる唯一の相手が。

しかし今は、その彼もいない。彼は数年前に姿を消してしまった。ただし、その時は特別何も思わなかった。元々放浪癖のようなものがあった彼だから、またいつもの如く数日でふらっと帰ってくるだろう、と。

しかし彼が柳生の元に帰ってくる事は無かった。もしかしたら飽きて捨てられてしまったのかもしれない。

それならそれでも良い。無事で過ごしているのなら──と、自分に言い聞かせていたのも少し前までの事で、最近は彼の事すら考える事は無くなった。仕事が忙しいからという理由もあるけれど。

しかし好意は好意として受け取っておく事にしよう。ありがとうございます、と礼を述べて、柳生は再び帰路に着く。

途中スーパーに立ち寄って、買い物袋を下げてマンションの前に着いた時、違和感を感じた。

自分の部屋の灯りが点いている。

消し忘れたのだろうか。いや、それは違う。出勤の際に再三確認したのだ。消し忘れなどあるはずがない。

では何故?

拭いきれない疑問を抱きながらも、柳生は自分の部屋に向かった。鍵をかけて、そっと足を踏み入れる。できるだけ音を立てないように、ゆっくりと。

刹那、目に飛び込んできたのは信じられない光景。


「おかえり、やーぎゅ。このところてん美味いのう」


自分のお気に入りのところてんを悪びれた風も無く食べる、数年前に姿を消した彼──仁王雅治が、そこにいた。









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