「待て。どこ行くんじゃ?」


冷静になって自己嫌悪に陥った私が立ち上がった直後、仁王君が腕を掴みました。正直、冷静になったとはいえまだ余裕が無いので離してほしいのですが……。


「手を洗って来ようかと……」

「えらい慣れとったのう……今までもした事ある?」

「えぇ、まぁ……」

「ふぅん……こういう事と無縁そうな顔しとるのに意外じゃな」


相手は“何も知らない”仁王君……とはいえ、少し胸が痛みました。

もしかしたら仁王君は援交やその類だと考えているのかもしれません。けれど私がこういう事をする相手は仁王君だけで、無知な私にそれを教えたのも仁王君なのです。

そんな事も露知らず、仁王君は私を探るような瞳で見ながら続けました。


「で、俺のを舐めながら自分も感じてた……と?」

「違います……」

「違わんじゃろ。分かるぜよ、ソレ」


顎で促され、しかし布越しに主張する自身を隠す事もできず、頬が火照っていくのが分かります。

そんな私がおかしかったのでしょうか。悪戯っぽい笑みを浮かべた仁王君に腕を引かれたかと思えば、次の瞬間には唇に久しぶりのぬくもりがありました。

突然の事に動けない私の耳元で、仁王君が囁きます。


「誰かとした事あるんじゃろ? こういう恥ずかしい事」

「仁王、君……っ」

「気持ち良かった?」

「……っ」


違うといえば嘘になります。けれど肯定するのも恥ずかしくて、困惑する私に仁王君は言いました。


「そいつと俺、どっちが気持ち良いかのう……ヤってみる?」
「え……?」

「俺と、ヤッてみる?」


思いがけない提案でした。けれどそれもある意味では大切な……そう、大切な──……


「して……くれるんですか?」

「……え?」


ただ私をからかっていただけなのでしょう。仁王君が驚いたような声を上げました。

しかし後には退けません。

恥ずかしい気持ちを我慢して、顔が熱くなるのを我慢して、私は正面から仁王君の瞳を捕らえました。


「してください、仁王君……」










「本当にえらい慣れとるのう……けどまさかこっちもとは思わんかったぜよ」

「あぁ……っ、ぁんっ」


深く抉られる度に、私の口からは歓喜の声が零れ出ました。抑える事のできないそれは、私自身の耳までも犯していきます。

幽霊の仁王君としていたとはいえ、今私の中にいるのは本当の仁王君。その温かさが、私を更に高ぶらせます。


「すんなり受け入れて……柳生とヤッたの、どんな奴じゃろなぁ」

「ゃっ、ぁっ、にお……君、そこは……あぁぁっ!!」

「ふぅん……柳生ここが好きなんじゃな」

「ぁっ、ぁんっ、ぁっ」

「気持ち良いじゃろ?」

「ふぁっ、ぁっ、あぁぁっ、ぁんっ」

「……しっかりそいつに開発されとるのう」

「ぁっ、……やぁぁぁっ」


途端に激しくなった抽挿に、私はついて行くのがやっと。それでもその最中に見た仁王君は、どこか不機嫌に思えて仕方ありませんでした。











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