あの日の事は思い出したくもないのだろう。

あれ以来、柳生は仁王と二人きりになるのを明らかに避けている。まぁそれは当然か、と仁王は思う。

だからといって、仁王からすればあの日の事を無かった事にはできない。できるはずがない。なにせあの日の柳生は──……





いつかの結末






「……っ、……っ!」


指を僅かに入れて浅い場所を擦れば、柳生は唇を噛み締めて耐えていた。枕に顔を埋めて、必死に声を出さぬようにと。

当然だ。今は部活の合宿中で、ここは合宿所の一室。仁王と柳生、それに丸井と切原が使っている和室。

丸井と切原は風呂に入ってくると言って出ていった。そう遅くないうちに戻ってくるだろう。それまでに終わらせなければならない。

しかし。


「やーぎゅ? おねだりの仕方はこの前教えたじゃろ」

「……ぁっ、……っ」


前も一緒に触れてやれば、とっさに出たのだろう。艶めかしい声が、一瞬だけ響いた。

耐える姿は嗜虐心をそそる。そんな事など露知らず、柳生はただ拒否を示すよう首を振った。

前と同じように手首を縛っているから、柳生は抵抗できない。仁王にされるがままに、快楽の渦の中にいた。


「そろそろ赤也達帰ってくるぜよ? もしかして見られたい? 柳生、そういう趣味じゃった?」

「違っ……お願いします、にお、君……もうやめて、ください……っ」

「このままやめたら苦しいのは柳生じゃろ?」


耳元で優しく囁きながら、仁王は柳生自身の根元をきつく握る。それでも後ろへの刺激と舌先での背中への愛撫は続けるから、柳生は小さく呻いた。悔しそうに仁王を睨む姿が、ゾクゾクする。


「俺は別に構わんぜよ、赤也達に見られても」

「仁王君……っ」


前を擦り上げる手を速くする。同時に後ろをくすぐっていた指を奥にやれば、良い場所に当たったのだろう。柳生は身を捩って悶えた。

柳生の耳元に唇を近付けて、仁王は低く囁く。


「簡単じゃろ、やーぎゅ?」


自分の息遣いまで柳生が感じるように、ゆっくりと。

その腰に響く声音と甘い誘惑に負けたのだろう。一瞬躊躇った柳生が、仁王君、と息を乱しながら口にした。


「お願いします……っ、にお、君……んぁっ、……仁王君のを、私の、中に……っ、入れてください……っ!!」


息は絶え絶え、そして小さな声音。

ゲイでもない人間が男にねだるとは、どんな気分だろう。屈辱に耐えながら、それでも柳生は懇願した。

仁王が何も言わずそのまま指での抽挿を続けると、柳生は小さく喘ぐ。その間も途切れ途切れに、お願いします、と繰り返した。

そうして強制したとはいえ柳生に誘われるがままに抱けば、柳生はまたも声を押し殺す。仁王が中をかき混ぜる度に、柳生は気持ち良さげな表情で息を詰めた。

部室で犯した時も、そうだった。嫌と言いながらも快感を悦び、自ら腰を振る柳生は、この上なく艶やかで壊してしまいたくなる。

そんな自分の痴態を知ったら柳生は一体どんな顔をするのだろう。

今度は動画でも撮っておこう──そんな事を思いながら仁王が最奥を穿つと、柳生は僅かに喘いで、しかし盛大に果てた。孤を描いた白濁が、勢いよく布団を汚す。

しなる背中を返して正面に向き直らせれば、そこには余韻に浸って無防備な様を晒す柳生。普段の紳士の姿からは想像できない程可愛い。

その惚けた表情がまるで誘っているように見えて、仁王は思わず唇を重ねた。もう抵抗する気力すら残っていないのだろう。柳生は大人しく、そのキスを受け入れる。

今はまだ身体だけの関係、それも一方的な。けれどいずれ、手に入れてみせる──ぐったりとした柳生を抱きしめて、仁王はその額に触れるだけのキスをした。
















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