Short | ナノ


食べすぎにはご用心


「先輩、これいつものヤツなんすけど」
「ん?」

木の葉の里の私のお気に入りの定食屋さんでいつもの様に冷しゃぶ定食、トンカツ定食、焼き魚定食、加えて大盛りサラダと抹茶パフェを並べて食していた。
ちなみに誰かと食べていたというのではなく、全部私のである。

私は秋道一族もビックリな大食いでこの位の量はペロリと平らげていまうのだ。
でも自分でいうのも何だけど私はやせ形で所謂食べても太らない体質ゆえ、同期からはよく羨ましがられる。

そんな私の食べっぷりに定食屋にいる客や店員が引きまくってる中、彼は私に話しかけてきた。

彼とは、中忍の奈良シカマル。
この前私が隊長を務めた任務で一緒になって以来の顔見知り。
綱手様が彼をかなり推すものだから試しに作戦を彼に任せてみたら、これが凄かった。
上忍の私が目を丸くしてしまった位の完璧な策で、実行してみればスムーズに事が進み予定より早く任務が終わったのだ。
次々と新しい優秀な忍びが育っていて、木の葉の未来は安泰だなぁなんてしみじみ思った。

それはさておき、彼の言う“いつものヤツ”とは空腹感を抑える薬の事。
いつも任務でこれは私の必須アイテムだ。ないと任務にならないと言っても過言ではない。

私はサラダを掻っ込んで口に流し込む。
目の前に彼がいるけれども元々私は他人を気にしながら食べる質でもない。
もぐもぐ、ごくんと飲み込む。ちゃんと噛んでますよ、ちゃんと。

「ありがと、わざわざ渡しに来てもらっちゃってごめんね」

並ぶ食器の隙間に置かれた薬坪を手に取り中身を確認してからポケットに仕舞った。

ついでにキツネうどん追加ーと店員に声をかける。「は、はいっ!」と若干怯えた風に店の奥に消えた。
まあ仕方ないか、いつもの私の顔馴染みの店員さんならこんなに怯えないんだけど、今日の人は新人さんかアルバイトさんみたいだし。

「先輩って美味しそうに飯食いますよね」

気がついたら机を挟んだ向かいの席に座る彼にそう言われた。
何か食べる?とメニューを見せるがもう食べたとやんわりと断られた。

「そう?食べっぷり良すぎてむしろ気持ち悪いってよく言われるけど、そんなこと初めて言われたなぁ」

抹茶パフェに刺さっていたクッキーをもぐもぐと咀嚼してから口を開く。珍しい事を言う後輩もいるもんだ。

そう言えば初めてこれを見た時も、彼は驚いてはいたものの顔を青ざめさせたり冷や汗かいたりってのはなかった。なんでも同期に秋道一族のヤツがいるんだとか。
でもソイツと比べても遥かに先輩の食べる量は多いっすね、と溢していたのは記憶に新しい。

「というかさ、この後奈良んとこに取りに行こうと思ってたんだけど何か急ぎの用でもあった?」

わざわざ届けに来てくれたのは有り難いが、いつもは私が出向いていたのだ。それに任務で忙しい時は同じ上忍の奈良の父、シカクさんから受け取っていた。

だからこんな風に彼が持ってきたのは極めて珍しい、というか初めてだ。

「いや…何かって程でもないんスけど…」

私は抹茶パフェをスプーンでパクパク食べながら彼の言葉を待った。丁度その時にさっき注文したキツネうどんが運ばれて来たのでどうも、と頭を下げて受けとり店員が去った。それを見計らった様に彼は言葉を口にした。

「先輩、今彼氏いますか?」

いきなりこんな事を聞かれたら普通驚くだろう。現に例外なく私も驚いた。
抹茶パフェを横にずらして割り箸をパキっと割る。

彼氏はいた時もある。たぶん人並み程度の付き合いはしてきたと思う。人より多くの人と付き合って来たかもしれない。でもどれも長続きはしなかった。

理由は言わずとも分かること、この食べっぷりにあった。
木の葉で私が大食いだという事を知らないヤツはいないはずなんだけど、目の前にすると食べる気が失せるらしい。

基本、来るもの拒まず去るもの追わずの私は去っていく男達を引き留めもせず言い寄ってくる男達を嫌ったりなんて事なく今まで生きてきた。

「今はいないなあ」

言ってからうどんを啜る。キツネの甘味がよく染み込んでて美味しい、次の時も食べようかどうか迷いながらまた啜る。

「オレ、どーでもいいヤツのために木の葉の全部の店回って薬届けたりなんかしないんで」

気だるげにポツリと言われた一言に私は一瞬動きが止まる。ごくんとうどんを飲み込んでから前を見た。彼は目が合うとニヤリと口角を上げた。

「鋭い先輩なら言ってる意味、わかるっすよね?」
「…まあ、なんとなく」

曖昧な返事になってしまったけれど、ここまで言われたらそういう事なんだろう。

「先輩、オレが策士なのは知ってると思うんスけど…これから覚悟しといて下さい」

彼は席を立つと振り返ってニヒルに笑った。

「必ず惚れさせるんで」

じゃ、と店を去っていく彼に呆気にとられた。ツルリと啜ったうどんの汁が顔に跳ね、我に帰る。

なんだ、今の。なんだ、この動機。

私は火照る顔を誤魔化すために店員にいちごパフェ追加ーと一声かけた。

食べ終わって支払いをしようとしたがもう払われたとの事。彼の仕業だと直ぐに合点が行く。
それにしても最後に頼んだパフェは居合わせていなかったはずなのに、それさえも計算の内にいれていたとは。なんとも末恐ろしい後輩だこと、そんな風に余裕を構えてられるのも今のうちかもしれない。





朔様、リクエストありがとうございました。


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