早朝の勝手場。
居るのは俺一人。
其れというのも、蔵に足りない食材を取りに行った総司が中々戻ってこないからだ。
(…何をやっているんだあいつは…。まさかまた逃げ出したとか…。……有り得るな…。)
仕様が無い、俺一人でも作らねば皆に迷惑がかかる。
米を炊き、汁物を作り、惣菜を作る。
大人数の朝餉の支度は骨は折れるが嫌ではない。
丹精込めて作った物を喜んで貰えるのは嬉しい。
…其れが好いた者ならば尚更。
(まぁ、あれでは味も何も有ったものでは無いだろうがな…。)
いつもの食事風景を思い浮かべて溜息を吐きつつも口元が緩む。
「斎藤さん、おはようございます。
何か良い事でも有りましたか?」
不意に聞こえた声に些か吃驚した。
振り向けばにこやかに挨拶をする千鶴が居た。
「いや…、何も無いが…?」
「そうですか?嬉しそうに微笑んでらしたので良い事があったのかと…」
いざ指摘されるとどうしたものか少々恥ずかしい。
「斎藤さんお一人ですか?
もし人手が要る様でしたらお手伝いさせて下さい。」