風間×斎藤
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ぽつり、ぽつりと空から落ちてきた水滴が頬を濡らす。
水滴は徐々にその量を増やしていき、やがてザアザアと音を立てて俺の身体を濡らしていった。
どんどん奪われる体温。
右目は雨で柔らかくなった地面に沈んでしまった。左目だけで周りを見渡すも、雨脚が強くただ真白い世界が広がるばかり。
立っている者はいないはずだった。
敵も味方も、皆倒れた。
既に手足の感覚は無い。
痛みも感じない。
このまま、雨に打たれて事切れるのも悪くはないな。と自嘲気味に笑ったつもりだったが、頬も唇も動いたようには感じられなかった。
いよいよ俺にも「その時」がきたらしい。
辞世の句でも、などと柄にもない事は考えぬ。
最期に言葉を遺したい相手もいない。
会津に残る、と副長に告げた時に「新選組」という肩書きも失った。
今はただ、静かな死を待つだけ。
そっと瞼を閉じようとした瞬間、ジャリ、という音が耳元に響いた。
突如目の前に現れた脚。
敵か、味方か、確認しようと視線を上げたが、激しさを増す雨に視界を遮られる。
ガツ、と爪先で肩を蹴られ、力の入らなくなっていた身体は、呆気なくごろりと仰向けに転がった。
雨が容赦なく顔を打つ。
目を開けていられなくなり瞼を閉じた。

「無様だな」

雨音に混じって、聞き覚えのある、尊大な声が聞こえた。
次いで、ふん、と鼻で笑う声。

「本当に人間というものは、愚かで、脆い」

よりによって、己の最期にこの男が現れるとは。
幾多の命を奪ってきた俺には、静かな死など与えては貰えぬらしい。
そんなにも神は、俺に罰を与えたいのか。

風間、

そう呼びかけたつもりだったが、俺の口から出たのはヒュウヒュウと息の漏れる音だけだった。

こんな男の前にいつまでも醜態を晒していたくはない。

殺せ。

今すぐに。

俺の思いは声にならず、無言のまま風間にぐいと片腕を持ち上げられる。
ダラリと力を失った俺の身体はされるがまま、支えられ、半身を起こした。

「口を開けろ」

風間の命令を聞く気など無いが、言う通りにしようとしたとしても、もう口を開く事すら儘ならなかった。






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