昼下がりの甲板の一角。時折頬を撫でる風が心地よい。
体がぽかぽかするのは、日なたにいるから、だけではない。
「マルコさん」
「んー?」
少し体をよじって座り直し、もう一度マルコさんに寄りかかった。それに合わせて、彼も少し私に回す腕を組み直す。
晴れている日の、恒例の光景。読書好きなマルコさんが定位置に座り、その膝の上に私が座る。私は何をする訳でもなく、ただその温もりに包まれているだけ。そんな私を後ろから抱き締めるようにして、マルコさんは黙々と本を読む。
凛々しい胸板に頭を預け、私はふわりと欠伸をした。
「マールコさん」
「ん?」
「眠いです」
私がそう言うと、マルコさんは片手で私の目を覆った。つられてその下で目を閉じると、耳に入ってくるのはさざ波の音だけだった。
だんだん睡魔が本格的に私を襲って、意識が揺らいでいくのが分かる。頭上でマルコさんがふっと笑ったような気がした。それと同時に目を覆っていた大きな手が外された。
私は目を閉じたまま、再び聞こえ始めた本をめくる音に耳をすませた。ふらりと体が横に倒れた気がしたが、マルコさんの腕に頭が乗っかりそのままの体勢を保つ。
うとうとして、本当にこのまま寝てしまおうかと思ったとき、私の頬を柔らかなものが撫でて。
「ひぁっ!」
急に鎖骨の上辺りに触れた、マルコさんの唇。情けない声を上げて、私は目をかっと見開いた。
「な、なな、何を...!」
マルコさんが動いてくれないため、私は傾いたまま。彼の唇も、私に触れたまま。頬には髪の毛がふわりと当たっている。こちらは動揺しているというのに、マルコさんは少し離して耳元で静かに笑った。
「本を読んでたら急にナマエの鎖骨が視界に入ってな。そりゃ、好きな女が誘ってんだから、乗るしかないだろい」
「誘ってなんかないです...!」
動けない私の耳たぶにマルコさんは僅かにキスをして、やっと離れてくれた。体勢を立て直し、マルコさんも改めて私を抱き締める。
「寝込み襲うなんて、マルコさん変態」
マルコさんは私の頭上に顎をコツンと当てた。ちょっと痛くて抗議すると、またふっと笑う。
「ナマエ」
「なんですか?」
「俺以外に、触らせんなよい」
「もちろんです」
マルコさんの発言に思わず笑いが零れた。マルコさんだけのものです、と言うと、彼は私の目尻にキスを落として、また本を読み始めた。
1日の中で、一番幸せな時間。
鎖骨の上、マルコさんと同じ刺青を入れたそこは、まだ少し熱く感じた。
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