「「「カンパーイ!!」」」
今回は航海が長かった。船の中での期間が長かったため、久々の上陸に皆テンションが高い。
早速クルー全員そろって酒場に入った。周りにも島の人間がたくさんいるが、おかまいなしに盛り上がっている奴ら。テーブルを囲う仲間から少し離れたカウンターに座り、俺はグラスを傾けた。
「ベポー。そこのお皿取って」
「アイアイ!どうぞ、」
「ありがとー」
野郎たちの中から聞こえる、少し高い声。ハートの海賊団唯一の、女のクルーであるナマエだ。
「ベポも食べる?」
隣同士に座るナマエとベポ。あの2人は普段からよく一緒にいる。今も仲良く、ナマエがフォークに刺した肉をベポに食べさせていた。
「美味しいねえ!」
「ねー!もう一個、いる?」
そんな微笑ましい2人の後ろに影がさす。俺は思わずため息をついた。
「ナマエ。俺に食わせろよ」
我らがキャプテン、トラファルガー・ロー。ナマエの後ろからその長い腕を首に回し、ベポに差し出していたフォークを自らの口に運んだ。
「あーっ。キャプテン、横取り。それベポにあげるのだったのに」
「何言ってんだよ。ベポにばっかり構ってんじゃねぇ」
船長はナマエの横を陣取った。
「ちょっと!それ、あたしのお酒」
船長がぐいっと飲み干したジョッキはナマエのものだったようで。ナマエは不機嫌に船長を睨みつけた。意外とこいつは、酒に強いんだ。
船長はにやりと笑う。これは良くない予兆だな。そう思っていると、船長がナマエの肩に腕を回し、ものすごい近さに顔を近づけて。鼻と鼻がくっついているんじゃないかというほどに。
「何だ。俺との間接キスが不満か?」
「そういう問題じゃないから!あたしの!お酒だから!」
「クククッ。そうか」
だったら直接してやろうか?
そう言って、船長はナマエの唇に指を這わせる。こんな光景は慣れたものだが、船長にこんなことをされて動じない女はナマエだけだろう。
「あーっ!船長がナマエにセクハラしてるぞぉ!」
そんな2人を指差し叫ぶのはシャチ。完全に酔っている。またアホが来たな。
「俺が助けるぞ、ナマエー!こらっ、船長離れなさいっ」
酔いに任せ、無駄に威勢のいいシャチは、船長の服を引っ張ってナマエから引き剥がす。このあと起きる事態は、既に予測済みだ。
シャチ、お前が悪い。
「おい。シャチ。邪魔してくれるなよ?Room」
「ぎゃぁぁぁああ」
これもいつもの光景。俺はまだ余り口を付けていなかった酒を手にして。
「あー。疲れた。キャプテン女癖悪すぎ」
「また避難か」
俺の元に来たナマエは、肩をすくめながら隣に座った。
「だって、ペンギンの横が一番静かだもん」
そう言ってナマエは俺の手からグラスを取り、口を付けた。
「それに、」
ナマエが俺を見て、綺麗に笑う。グラスの中の氷がカランと音を立てた。
「ペンギンの隣が、一番好きだもん」
「フ......そうか」
おいしーね、とナマエが酒を飲み干す。あ、間接キスだ。そう言うナマエは、もう俺の中では一番の女だ。
***
結局最後に残るのは、俺とあの男だけだ。
酔いに酔ったクルーたちは雑魚寝状態。シャチに至っては、バラバラにされたのを妙な形にくっつけられている。
隣で飲んでいたナマエも、いつの間にかカウンターに突っ伏していて。それを目に写してから、俺はもう一人、酒を飲んでいる男を見た。
「本当に......あなたは人が悪い」
船長がフッと鼻で笑う。
「お前が前に進まねえからだろう。早く自分のモノにしちまえばいい」
俺だって、人の女取るほど悪い男じゃねぇよ。
俺は隣で眠るナマエを見た。寝息をたて、寝顔をさらす彼女。こんなに無防備な女を、俺は見たことがない。
「ペンギン。お前も気付いてるんだろう?」
「......何にですか」
「まァいい。分かってんだろ。気付かないふりして、どうすんだよ」
分かってる。船長が言っているのは、ナマエの俺に対する気持ちだろう。おそらく彼女は、俺のことを好いてくれている。自惚かも知れないが、船長も言うんだ。間違ってはいないだろう。
「さっさとなんとかしてやれよ」
「......はい」
そうだな。もうそろそろ、いいかも知れない。ナマエの半開きの口に思わず笑みがこぼれた。
でも、まずはシャチ辺りに、牽制球を投げておこうか。
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