気まぐれに思いついたSSのせてみるページ

あったかも知れない世界6
「ごめん。もう優司兄さんとサッカーしないから」
京介に言われた言葉は、俺の耳には聞こえないふりは出来なかった。

留学先のアメリカから日本に帰ってきて、まず向かった先は両親の元でも弟の元でも、留学から帰ってくるのを待っていてくれたかつてのメンバーの元でもなく。
一番最初に会いたいと思っていた優一の元でもなかった。
「確か、この辺り…」
河川敷へと通ずる閑静な住宅街の木造アパートの向かい。
小さな公園を少し過ぎた道路沿い。
黒い服の男と出会った場所に俺はやって来ていた。
日本へと向かう飛行機の中、優一に何を一番に話そうかと思い出を甦らせていた時。
今までサッカーに明け暮れていてなんとも思わなかった疑問がふと、頭の中に浮かんだ。
"そういえばなぜ俺は強制留学させられたんだっけ?"
かつての雷門中校長から言い渡されたそれは、校長は何も理由を言わずただアメリカへ留学になりましたとしか繰り返さなかった。
そしてその留学を言い渡される前、日常の中に潜んだ非日常。
"黒い服の男と会った"事を思い出した。
黒い服の男はフィフスセクターで管理サッカーの管理をしようと言ったはずだ。
そして俺はそれを断った。
つまり、俺みたいな邪魔者は片付けておくに限るってことだったとしたら?
なぜ、どうしてが俺の中でぐるぐると回って収集がつかなくなってきた頃。
ふいに後ろから、声が聞こえてきた。
「あれ…?ユウイチさん…?」
声変わりを迎える前の幼いような、少し中性的な声。
その声の方へと体ごと向きを変えて見ると体を硬くしている一人の少年がそこに佇んでいた。
「!剣城?!」
俺が振り向くと目の前の少年がとても綺麗なスカイグレーの目をこれでもかというくらいに大きく見開き驚いていた。
「確かに俺は剣城だけど、君は?見たところ雷門中の生徒だね?」
「えっう、あ、はい!オレ!松風天馬って言います!!!」
松風天馬、と驚きつつも元気に答えた少年は、緊張のあまりか気を付けの姿勢をとってしまい脇に抱えたサッカーボールを落としてしまっていた。
「ボール、どっか行っちゃうよ?」
「えっ?あっまっ待って!!!」
表情を世話しなくくるくる変える天馬くんを見ていたら、さっきまで悩んでいたことがどうでも良いような気がしてきて、思わず吹き出してしまった。
「ふっ…ふふふっ」
「?剣城、さん?」
「いや、ごめんごめん。天馬くん見てたら…ふふふっ」
「なんかよくわからないですけど、笑わないでください!!!」
頬を赤く染め少し涙目になりながらそう訴える天馬くんを笑いながら観察していた。
あぁ、この子は飽きない子だな。
ふいにそう思ってもっと笑みを深くしてしまっていた。

ある程度俺の笑いが落ち着いた頃にふと空を見ると青かったはずのそれはいつの間にか赤く染まっていてそこでようやく優一の面会時間が短くなっていることに気がついた。
「っと、そうだ用事があったんだった。ごめんね天馬くん。」
「えっいやこちらこそすみません」
「俺は剣城優司って言うんだ。また会えたらよろしくね?」
「剣城優司さん…?」
「そう、まあ、覚えられたらで良いから」
そう言って天馬くんの横をすり抜けて病院へと走って行った。
すり抜けた時の天馬くんが何か言いたげな目でこちらを見ていたのには微塵も気がつかないまま。

それから優一におみやげのマカダミアチョコと思い出話に華を咲かせていたらあっという間に面会時間は終わりを迎えてまた明日にということでお開きになり。
家に帰ると両親がクラッカー片手に出迎えてくれていた。
京介はキッチンの食事が所狭しと並んでいるテーブルの席についており顔を合わせた途端に緊張で硬かった表情を少し柔らかくして「おかえり」と言ってくれたのが嬉しくてつい抱きつきに行ってしまった。
完全にではないけれども久しぶりに家族が揃って食事をとって、やっぱりチームメイトで集まるのも良いけれど、家族が集まるのはとても暖かく感じて。
唐突に、あぁ、俺は幸せだな、なんて思ってしまった。

夕食も片付き手持ちぶさたになってしまった俺は、久しぶりに京介とサッカーがしたいと京介の部屋へと足を運んだ。
あれから2年も一緒にサッカーやってないのかとか、京介はキックが強かったから今どんなシュートを打つのだろうとか。
それから雷門でサッカーやってるか、とか。
聞きたいことが纏まらないままにすぐ近くの京介の部屋に着いてしまい、とにかく聞くのはサッカーしてからだと結論を出して京介の部屋の扉をノックした。
「おーい京介ちょっといいか?」
コンコンとノックと声かけをするとすぐにカチャリと扉は開きひょっこりと京介が顔を出してきた。
「優司兄さんなに?」
「いや、久しぶりに京介とサッカーしようと思って」
ニカッと笑ってボールを胸の真ん中で抱えたつもりだった。
けれど京介は反対に白い肌を少し青く染め表情を硬くした。
それは、何かを恐れているような、そんな表情を浮かべていて。
身長が俺と対して変わらなくなっていた弟の表情の変わりように、俺はどうしたのかとボールを脇に抱え直し手を差しのべようと伸ばした。
伸ばした手がバチンッ、という音とともに叩き落とされた。
京介に叩き落とされた右手がじんと痛みを訴えたのをようやく脳が理解した時。
「ごめん。もう優司兄さんとサッカーしないから」
京介に言われた言葉は、俺の耳には聞こえないふりは出来なかった。
「ちょっ京介!どういう…!」
ことだ、と言い終わる前に、京介は素早く扉の中へと引っ込んでいた。
勢いよく閉めた扉はバタンッ!と大きな音を立てて閉じられ、それから扉越しの京介に何を話しかけても一切の反応を返してくれなくて。
2年前はある程度の京介の反応を見ればアイツがどういう気持ちなのかすぐわかったのに。
今は何を思っているのか、俺にはさっぱり理解をしてやることが出来ないで京介の部屋の扉の前で呆然と立ち尽くす事しか出来ない自分を心の中で呪ってやりたかった。

ホーリーロード地区大会。
帝国学園戦まであと2日の出来事。




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