言の葉のあわい 5

 ハルヴァタット学院につながる入口の前でアルハイゼンさんを含めた複数名が集まっているのを見つけた。彼が学者と口論にもならない会話をしているのは珍しいことではないけれど、彼と話しているのは旅人とパイモン、そして草神様だ。馴染みのない顔ぶれに興味を引かれて彼らのもとへ向かう。
 不服げな空気を滲ませているアルハイゼンさんがいち早く私に気づく。彼の視線が私の加勢を求めているような気がした。そんな彼の様子には気づいているに違いないのに草神様はおだやかに挨拶してくる。

「こんにちは。会えて嬉しいわ」
「こんにちは草神様、お困りごとですか?」
「ええ。アルハイゼンを説得しているところよ」

 にこ、と彼女は微笑む。やさしい笑みだったのに圧を感じるのはどうしてだろうか。いつでも我を通す彼を説得するという行為のせいか、困っていると言いながらも説得をやめない意志のせいか。幼さを感じる容貌をしているだけで彼女は七神の一人なのだということをこういうときに強く実感する。

「クラクサナリデビ様、旅人とセノがいるなら戦力としては十分です。元素の担い手も彼で事足りるでしょう」
「あら、あなたの貴重な時間をもらうのだもの。相応の報酬は用意するわよ?」
「俺はいまの待遇で満足しています。それでも人手が必要であれば……カーヴェを誘ってはどうですか。あいつなら金で動かせるし、大義まで揃えばどんな危険にも飛び込んでいくでしょう」
「ルームメイトを売るなよ……」
「あなたの要望には沿えないわ、カーヴェにはもう声をかけているもの。私は事情があって秘境に入ることはできない。だからこそあなたと旅人、セノ、そしてカーヴェ……四人にお願いしているのよ」

 彼は眉間に皺を寄せて困り果てたような顔をし、全力で嫌がっていることを主張した。彼にあんな顔をさせることができるなんて草神様くらいのものだ。あの反応から察するに、おそらく彼女は彼の人生史上最高の面倒ごとになっているに違いない。
 これほどあからさまにいやがるだなんて、いったいどんなお願いをされているというのだろうか。彼は面倒事を嫌うがゆえに断るコストのほうが高ければ報酬について交渉の姿勢に入る。つまり長いものに巻かれるタイプなのだ、表面上は。
 学者がフィールドワークをする際には、魔物や盗賊への対策としてエルマイト旅団に護衛を頼むのが常だが、彼はそういったものをあまり頼らないと聞いている。個人主義の彼にとってだれかとの共同作業はかえって非効率だし、戦闘面において必要性がないためだろう。そんな彼にとって秘境探索なんてさほど困難ではなさそうだけど、と首を傾げる。

「引き受けて差し上げればいいのに」
「やけに具体的な人数なのが引っかかる。それでいて秘境に関する情報は他に開示されていない、彼女には裏がある」
「裏って……草神様に向かってなんてこと言うんですか」

 神をも恐れぬ物言いに眉をひそめていれば、賑やかな来訪者が教令院の門を開いた。

「クラクサナリデビ様! 本日はこのような名誉ある任務に僕をお選びくださり光栄です──……うわ、どうして君がここにいるんだ」
「信じがたいが、俺も君とまったく同じ心境でここに立っている」
「役者が揃ったわね」

 金髪のスメール人が嫌なものでも見るような目でアルハイゼンさんを見ている。彼がカーヴェという人物なのだろう。それにしても、金髪のスメール人という言葉にはなんだか聞き覚えがある。先ほどの話によると元素力を扱うことができる、神に認められた者なのだろう。神の目を持つ、金髪の、カーヴェという名のスメール人。カーヴェ……建築家の!
 ようやく合点がいき、かの妙論派の星を拝むことができた感動に浸っているとカーヴェさんの後ろからセノがやってきた。セノから「どうしてここに?」と問いを投げられる。

「草神様がいらっしゃったからご挨拶に。だけど大事みたいね」
「くだんの研究が少々厄介なことになったんだ」
「セノ、彼女を巻き込まないでくれ」
「……そうだな、浅慮だった」
「いや話してくれセノ、スメールの民はすでに巻き込まれている。ならば彼女だけでなく、ここにいる人すべてにだって聞く権利がある」
「君がいると単純な話もややこしくなる、黙っていてくれないか」
「フン……アルハイゼン、君は参加を拒否しているそうじゃないか。だったら黙っているべきなのは君のほうじゃないか?」
「喧嘩はやめてちょうだい。……それじゃあ、順を追ってあらためて話をしましょう。気になるのならあなたも聞いていていいわよ」

 口論に発展しかける二人を草神様は一言で収めてしまう。無関係であるはずの私にも傾聴の許しを与えて、彼女は静かに話を始めた。

「エサンが起こした事件について、知らないのは旅人とパイモンだけだったと思うけれど……二人はさっきの説明で大まかな流れは把握できたかしら?」
「大丈夫だぜ。妙論派のエサンって学者が生論派のやつと協力して悪いことをしてたってことでいいんだよな。えっと、妙論派はカーヴェと同じ学派で、生論派はティナリと同じだ! エサンは地脈を悪いことに使おうとして、とうとうセノに捕まった、だろ?」
「そのとおりよ、じゃあ話を進めるわね。エサンは地脈エネルギーを取り出すにあたっていくつかの場所をピックアップしていたわ、そのうちの一つが今回あなたたちに探索をお願いしようとしている古い秘境よ。ずっと隠されていた入口をエルマイト旅団が見つけてしまったの。彼らは中を探索しようとしたけど強固な封印がかけられていて不可能だった、だから学者に調査をさせて封印を解こうとしたの。エサンは彼らの思惑を分かっていて手を組んだみたい。だけど……彼らが実行に移す前に秘境を保護することができた。セノのおかげね」
「恐れ入ります」
「エサンが連行されたあと私は現場を確認したのだけど……調べている途中であることに気がついたの。あの秘境を封印したのは、過去の私」
「ナヒーダはどうしてそう思ったの?」
「力の源、施した仕掛けの癖、そういったあらゆる物事から判断したわ。いつか、小さな子猫の物語を読んだときのようにね」

 含みのある言い方をする草神様に納得したような反応を示したのは旅人だけだ。彼らだけが共有する秘密なのだろう。私たちはそれに気づいたものの指摘はせずに沈黙を貫く。

「私にはここ五百年の記憶しかないから、あれほど厳重に隠そうとした当時の心境は分からないわ。もういちど世間から隠すことができれば良かったのだけど、力の多くを失っている状態では元どおりにすることはできなかった。だから、内部を確認してきてほしいの」
「危険な秘境ということでしょうか」
「いいえ、おそらく危険はないわ。内部には純粋な草元素力──私の力のみが満ちている。もしかすると純度の高い元素力に惹かれたキノコンが入り込んでいるかもしれないけれど数は多くないはずよ。ヒルチャールといった魔物もいないでしょうね」
「だったら別に放置してもいいんじゃないか? 魔物を倒して安全な状態にしてくれって言うならわかるけど……」
「そうね。だけど、スメールはつい最近まで死域に悩まされていたばかりよ。ああいった元素に強い影響を与える環境は周囲の生態系に影響を及ぼすからいずれにせよ対処しなければならない。三十人団では元素酔いしてしまう可能性もあるから、あなたたちに頼みたいの。どうか力になってくれないかしら」

 概ね全員が快諾するなか、アルハイゼンさんが一人だけ黙り込んでいる。

「まだ渋ってるのかよ。ナヒーダがこんなに頼み込んでるのに」

 パイモンが腕を組みながらジト目で彼を責める。だけど彼は何かを確認するかのように草神様や周囲を眺めるとふたたび思考の海へと潜ってしまった。こうなると彼は論証を終えるまで反応を見せない。パイモンもそれを理解しているのか、旅人と顔を見合わせて呆れたように息を吐いている。
 私はというと、草神様の話を聞いて知的好奇心を掻き立てられていた。もしアルハイゼンさんに変わらず参加意欲がなく、しかし要員を変更することができないのであれば、私が名乗りを上げてはいけないだろうかと思う程度には。

「草神様、お願いが」
「どうしたの?」
「私が代わりに参加してはいけませんか? 元素は使えませんが、素論派としてそれらのエネルギー体に対する理解は一般より持ち合わせていますし、実験をしたこともあるので耐性は人並み以上にあるかと思います。職業柄、これまで多くの論文を読んできましたし様々な可能性を考慮して学術的支援ができるかと……!」
「素晴らしい意欲ね。魔物がいるわけでもないし、あなたなら問題ないと私は思うけれど……あなたの恋人は許してくれるかしら」
「私の決定権は私にありますので、あとは草神様のお心次第かと」
「それもそうね。心強い味方が三人もいるのだし、いいわよ、あなたも秘境探索チームに加わってちょうだい。だけど無謀な行動はしないと約束して」
「ありがとうございます、お約束します」
「待て、俺を置いていったい何の話をしている」

 アルハイゼンさんが会話に気づき、私を止めようとしたけれど「クラクサナリデビ様が保証するのであれば俺たちは問題ない。お前の決断の遅さがお前にとって不都合な事態を招いただけだ」とセノに言われて反論を封じられていた。

「……もとより俺が気になっていたのは『神が対処しない理由』だ。いまの説明で確信を得た。貴方の力が満ちていて、貴方の手によって封印された秘境に貴方自身が入れないなどありえない。『事情』はおそらく別の言葉で言い換えることができるのかもしれない。クラクサナリデビ様、貴方は──」
「さすがねアルハイゼン。協力してくれる、そういうことでしょう?」
「……はあ。わかった、いいだろう。俺も同行する」

 スメール中に花が咲いたのではないか。そう思わせるほど眩しい笑顔で草神様は喜んだ。さっそく現地へ向かうと言うので、私は半休を伝えに職場へ走ることとなった。

 スメールの神、異国の旅人と浮遊生命体、大マハマトラに有名建築家、元代理賢者の書記官、そして教令院の一般職員である私。大半がそうそうたる顔ぶれで構成される団体が雨林を縦断する。草神様はもう秘境については語る気がないらしく、道中は各々が雑談に興じた。

「あなたがアルハイゼンの恋人だったのか」
「ええ、初めましてカーヴェさん。アルカサルザライパレスをデザインした方にお会いできるだなんて思わなくて、とても驚きました。貴方が彼のルームメイトだったということにも」
「コホン、その話は一旦やめよう。僕もセノにあなたの話は聞いていたんだ、アルハイゼンはこんな大事な報告をついぞ今日までしてくれなかったけどね。僕は彼に対して色々と思うところがあるけど……だからこそ、あなたのような女性が彼の手を取ってくれたことを心から喜んでいるんだ。どうかアルハイゼンを頼むよ」
「どうした、一日でも早く目を覚ませとは言わないのか? ああも息巻いていたじゃないか」
「君ってやつはなんてことを言うんだ、本当に人の心がないな! 君を想ってくれる極めて貴重なひとを不安にさせるようなことを言うわけがないだろう。それに今だって変わらずそう思っているさ」
「言うわけがないと言った傍から暴露するだなんて、君は自分の信用を落とすのがお好きなようだ」
「人との信頼関係を築けない君に言われたところで何も響かないぞ」
「そういえば彼の経歴を君に話していなかったな、カーヴェは破産マスターだ。反面教師にする点で彼から学べることは多いだろう、ぜひ講義を受けるといい」

 教令院で学者を言い負かしているとき以上に早口になるアルハイゼンさんを驚きとともに眺める。カーヴェさんは綺麗な顔をこれでもかというように歪めていて、正直なところすごく居心地が悪かった。セノに助けを求めると他人事のように視線を逸らされる。セノのほうがきっと彼らの口論に慣れているはずなのにあんまりだ。
 二人の言葉には次第と熱がこもっていき、私はすぐさま蚊帳の外に置かれた。これ幸いと旅人の横に駆けていく。私に気づいたパイモンが憐れみの視線を向けた。

「大丈夫か? あいつらいっつもああなんだ」
「アルハイゼンの恋人なのに、貴方がカーヴェに会ったことがなかったのは意外だった」
「仕事で家を空けるとしばらく帰らない、と聞いたのでちょうどタイミングが合わなかったのかと。いたたまれなくて逃げてきましたけど、ある意味尊敬します。アルハイゼンさんと口論できる人なんて少ないですから」
「カーヴェも頭のいい子だから、アルハイゼンは遠慮せずに意見を言うことができるのでしょうね」
「アルハイゼンが普段はもっとずっと遠慮してるみたいに聞こえるぜ……」
「ふふ、真実は目に見えているものだけではないのよパイモン」

 草神様がパイモンを諭す。パイモンは「うぐぐぐ……」と唸りながらも素直に草神様の深意を理解しようと頭を捻っていた。
 決して卑屈になるわけではないけれど、私もカーヴェさんのような素質ある学者だったら彼とああした口論ができたのだろうか。彼に鋭い言葉を浴びせられるなんて考えただけでも恐ろしいけれど、それはそれ、ある種の憧れを抱かずにはいられない。
 くすくすと小さな笑い声が聞こえて、下を見てみると草神様が口元を抑えて楽しげにしていた。いきなりどうしたのだろうかと目を瞬いていると草神様は「以前も話したことだけれど」と言って眦を下げる。

「あなたの心はとてもおしゃべりなの。私の力は言わば心の言葉を聴くもの、だけど言葉にならない形として受け取ることなら私以外にも可能だと思っているわ。だから、そう、あなたは何も羨む必要はないの」
「ええと……?」
「貴方はカーヴェみたいに口論しなくてもいいって言いたいんじゃないかな」
「ちょっと寂しそうな顔してたもんな」
「パイモン、指摘するのはいけないわ。そっとしておいてあげなくちゃ。でも……私もお節介を焼くわね。アルハイゼンは意見を対等に戦わせるよりもっと大事なことをあなたに求めているの。おうちに帰ってから聞いてみるといいわ」

 三人のあたたかい視線に見守られて顔を覆う。どうしてみんなして私を恋に奥手な少女かのように扱うのかわからないけれど、全員が親切で声をかけてくれているのだということは分かっているので無下にできず、言葉にならない声を漏らすしかなかった。
 秘境に到着すると草神様が「ここでお別れね。私は秘境とスメールの入口をつなげておかなければならないから」と口にする。秘境がスメール国内に存在しないことをあっさりと告げられた私は驚愕するけれど、私を除いた全員にとっては至極当然の知識だったのかおそろしいほど何の反応もなく各々入口に向かって体勢を整えていた。
 重々しい音を響かせて開いた石扉の向こうに星空が見える。覗き込んだのか、それとも覗き込まれたのか。吸い寄せられるような不思議な感覚がして視界が眩んだ。

「わ、あ」

 瞼の向こうが明るくなり、目を開くと巨大な植物に覆われていた。スメールに自生している植物も大ぶりのものはあるけれどせいぜいが人程度のサイズ感で、パレス等の建造物と同等の規模を見るのは初めてだ。足下にある子房を観察する。このまま栄養にされてしまいそうである。
 軽く手を引っ張られて、いつのまにかアルハイゼンさんが私の腕を掴んでいることに気づく。さっそく探索を始めるらしく彼らは慣れた様子で周辺の情報を集めた。冒険者として名を馳せているだけあり、旅人がだれよりも先に秘境のギミックに勘づく。花の種と呼ぶには巨大な光る物体が、旅人が起こした草元素力に呼応して宙に飛んで行った。
 ギミック解除に合わせて花弁が生きているかのように揺れ動き、隠されていた道が現れる。強烈にわきたつ香りに鼻を塞いで、その地をあとにした。
 次いで現れたのは砂漠にも似た景色だ。砂漠にも似た、と形容したのは砂地に緑が広がっているからだった。スメールの砂漠にかつて緑地帯が存在したのは知っている。もしかするとこの秘境には過去の記憶が封じられているのだろうか。

「クラクサナリデビ様の言うとおり、危険はなさそうだ。魔物の気配は……待て、旅人あそこに」
「キノコンだ!」

 パイモンが声を上げたとき、すでに旅人は猛進していた。何度か剣を振り上げるとキノコンが消える。旅人の手元はきらめいていて、パイモンがそれを確認に向かった。人が変わったかのようだった。

「た、旅人って……すごいね。あれは何をしているの?」
「キノコンから採取できる素材を集めてるんだろう、俺と砂漠を歩いたときも花や魔物を見ては片手間に処理していた」
「へえ、旅人は砂漠にも行ったことがあるのか! セノの脚に着いて来れるだなんてなかなかの健脚じゃないか」
「素材を集めて一体何をするの?」
「商人のように安定した供給ルートを持たない一般人は、素材の調達を冒険者協会に依頼することがあるらしい。彼らにとって一番の利点は国外でしか調達できない物品を輸入する際に審査を比較的容易に通過することだそうだ。旅人の実力があればもっと高額な金額設定がされている討伐などで稼ぐことも容易だろうが、ああした細々した依頼もこなすのは収入が安定しない冒険者の特性だろう」

 旅人は調理から簡単な薬の調合まで何でもやってのけるらしい。学ぶことに対する誠実な姿勢をセノは高く評価していた。後半ではなんだか失礼なことを言っている気がするアルハイゼンさんの言葉は聞かなかったことにしておいた。
 その後も何体かキノコンは見かけたものの、秘境内部は安定したエネルギー状態を維持しているようだった。私は神の目を持っていないから元素の流れを目視することはできないけれど、学生時代に研究していたときの感覚から判断するに地脈の流れも正常であることが周辺環境からなんとなく察することができる。セノが何も言わないことからも、自分の仮説が間違っていないことを実感した。
 しばらく歩いたところでまた景色が変わる。今度はスメールともそうでないとも言えない、地下遺跡のような道が続いていた。足下には水が溜まっているが、踏んでも靴が濡れた様子はない。だけどどこか湿っぽさはある、不思議な空間だった。
 やはり、ここは非存在の景色が実在の景色に投影されているか、交ざっているか、そういった超常現象が起こっているのかもしれない。地脈がこういった不思議な景色を織り成すのだとすれば実に面白い。メモも機材もないことが悔やまれる。

「楽しそうだな」

 アルハイゼンさんが私の隣を歩きながら問う。私同様に未知の探求に心を浮き立たせているようには見えないが、どことなく彼の声はやわらかい。

「学生時代を思い出します。あのときにこんな秘境を研究できていればまた違った人生を送っていたかもしれませんね。ちょっとだけ残念です」
「新発見をしたなら臆せず発表すればいい。研究の道を選ばなかったからといって学者でなくなったわけじゃないんだ、君なら仕事も研究も両立できるだろう」
「そんなに器用じゃありませんよ。過大評価をしすぎでしょう」
「まさか。俺は本気で君を応援しているんだ。もっとも本当に興味がないのなら聞き流してくれてかまわないが」

 いつまでも学生さながらの謙虚さを持ち勉学に励んでいる彼ならともかく、学業を終えてからは業務の一環で他人の論文を閲覧することしかしてこなかった私にとって、学生時代の自分を取り戻すという選択は容易にできることではない。だからこそ学者としてやっていくのに不足はないと彼に激励されると面映ゆい。
 検討してみます、と返事をすると、先陣をきって歩いていた旅人とパイモンが私たちに向かって手を振った。

「おーい、この先、道が分かれてるぞ!」

 くるりと宙返りをして目先の道を指差したパイモンは、小さな頭をいっぱいに傾けて考える素振りをする。

「どっちに進めばいいんだ?」
「二手に分かれてもいいんじゃないかな。戦力も人員も足りているし、効率的に事を運んでも問題ないように思うよ」
「カーヴェに同意だ。いまのところ支障はないが、俺たちが歩き進めるあいだにすでに周辺の景色が二度変化している。たとえば砂漠のような環境が不安定な状況では、不測の事態が起こるとして物事は早めに済ませるのが常識だ。ここも同じと考えたほうがいいだろう」
「うん、俺もそう思う。偽りの花、偽りの砂、偽りの草。安全だけが真実だとは限らない」
「じゃあ二手に分かれる、に賛成多数だね。どういうグループ分けをしようか。希望ある?」

 論理的に思考する人間が多いためかとんとん拍子に決まっていく物事、旅人が慣れた様子でまとめる。旅人の質問に、はい、とアルハイゼンさんが恭しく挙手した。

「俺、彼女、君にパイモンでのチームアップを提案させてもらう」
「基準は何?」
「戦闘能力のバランスと、スメールベースの周辺環境に対した知識と適応力、それら総合的な資源を分配した。詳細説明は必要か?」
「妥当だろう、俺に異論はない」
「僕にはある! いま僕のことを戦力外として計算していなかったか?!」
「君の考えすぎだ。あと急に卑屈にならずに、普段からもっと自覚してくれると助かる」
「今の発言でより疑いを深めたよ。だいたい人数の差も著しいだろう、それについてはどう説明するつもりだ」
「カーヴェ、さてはパイモンを頭数に入れているだろう」
「おいっ! オイラは役立たずじゃないぞ! ……違うよな旅人?」
「うーん……まあ、パイモンは俺と二人で一人、みたいな……」
「そっ、そういう言い方したってオイラ誤魔化されないからな!」

 あんなにまとまっていた心が途端にバラバラになってしまった。半笑いになってぎゃいぎゃいと言い合いをしている五人を遠巻きに眺めていると、視界の端で何かが動いた気がした。彼らを挟んだ向こう側、分岐路の水面を星が流れている。
 地を駆ける流星は、彼らに声をかける間もなく一瞬にして消えた。行き場のない言葉が「あ……」と零れ落ちる。旅人がそれに気づいてくれたけれど、なんでもないと首を振った。
 結局、アルハイゼンさんが提案したグループ分けで進むことになった。不思議と明るい遺跡のなかを四人で進む。

「教令院でアルハイゼンは何を言いかけていたんだ?」
「何の話だ?」
「ほら、ナヒーダに止められてただろ」
「あれか。別にたいしたことじゃない──旅人も薄々気づいているんじゃないか?」
「そうなのか?」
「なんとなく。ナヒーダの意図くらいだけどね」

 にっこりと笑う旅人に感心する。私は思い当たるものがないと、パイモンと一緒になってアルハイゼンさんの顔を覗き込んだ。

「秘境の探索は方便でしかない。草神の力を使ってはじめて入口の維持が可能になるならば、な。大陸にいる生命体の大半が魔神に匹敵する力を有してはおらず、そういった存在が仮に秘境を利用しようと画策しても彼女はスメールの神として侵入を許してはならないからだ。つまり、彼女自身が俺たちに秘境に入って欲しい理由がある。おそらく秘境の最終地点にある何かを見せたいんだろう」
「最終地点に何かがあるんですか?」
「具体的に何かを聞かれても、俺も答えを持ち合わせてはいない。ただそう感じたというだけだ」
「お前でもそんなふわっとした推測をすることがあるんだな」
「あとは俺たちのほかにもディシアやニィロウなども声をかけたかったと残念そうにしていた。多くが革命を起こした面々だから、彼女の感謝だとかそういう琴線に触れた物事であると推察できる」
「しっかりした根拠あるじゃないか」

 パイモンの的確なツッコミに思わず笑う。

「あれだけ嫌がってたのに代理賢者もやってたし、面倒面倒って言うくせに意外と人助けもするし……あいつの気遣いに気づいたらすんなり承諾したってことだろ。お前ってけっこういい奴だよな」

 私も頷いた。彼は決して利害関係だけで物事を判断する人じゃない。それをパイモンが知っていてくれているのは嬉しい。

「優先順位の付け方や必要性の基準は人それぞれだし、俺とおまえではその違いはより顕著だ。それに……代理賢者か、あれは俺のような立場の弱い書記官では到底断ることができないものだった。幸いなことに俺は無事やり遂げることができたが。納得していなくとも理解していれば仕事はできる……本質的に、仕事ができないのは頭が悪い人間だけだと確認できたよ」
「謙虚さをアピールしたつもりか?」
「でも、代理賢者になったのは本当に意外だった。どういった経緯があったのか聞いていい?」
「アザールらの処分だけで教令院は劇的に変わりはしない。慎重を期すべき状況で賢者の選定に時間がかかるのは想定できることで、任命までのあいだ賢者の業務が滞り教令院全体の循環が悪くなることも明らかだ。中途半端に俺が祭り上げられている状況で、だれかが代理賢者として俺の上に立てば変なやっかみを買うかもしれない。よって、一時的に俺が権力を握るほうが好きに仕事ができる。ペースを乱されるのは嫌いなんだ」
「うーん、オイラにはよく分かんない基準だ。やっぱりお前が変わってるだけだろ」
「褒め言葉だと思っておこう」
「それって『愚かな者からみれば賢い者は皆イカれてる』ってやつのことだろ? さてはオイラのこと馬鹿にしたな?!」
「覚えていたのか、驚いたよ」
「さっきの言葉を訂正するぜ、やっぱりお前はすごく嫌なやつだ!」

 パイモンは頬を膨らませてそっぽを向いた。その様子を眺めているアルハイゼンさんの口角が上がっている。人をからかうのは趣味じゃないと言いつつも、こうした言葉の掛け合いを楽しむ気持ちはどこかにあるのだろう。加虐心じゃないのならとても不器用な人だということになるけれど、と観察しながら考えた。

「そういえば彼女は報酬をちらつかせて俺を買収しようとしていたが、君たちも彼女から報酬を約束されてあの場にいたのか?」
「声をかけられてついて来ただけだよ。友だちの頼みごとだし、報酬をもらうつもりはないかな」
「太っ腹だな。ではついでに俺の頼みも聞いてもらおう」
「清々しいくらいに図々しいな……」
「どうかしたの?」
「まだドリーとの連絡手段は残ってるか? 折り入って相談があると伝えて欲しい」
「できるけど、どうして?」
「理由は言えない。今はな」
「ふうん……わかった、伝えてみる」

 彼らの会話に耳を傾けながら歩いていると、ふと遺跡の壁がきらりと光った。足を止めて見てみると、壁の内側に夜空が見える。まただ、と。今度こそ幻想的なこの瞬きを覗き込むために道脇へと足を踏み出す。
 パイモンが遅れている私に気づいて「何してるんだ?」と近づいてきた。さっきから星空が顔を出すの、と返事をしようとしたとき、足下にあったはずの地面がなくなる感覚がした。見れば壁際にあったはずの地面が崩落していく。

「わああ! 危ない!」

 ぶら、と両足が宙をかく。パイモンが悲鳴を上げながらとっさに手のひらを私の襟元に引っかけた。彼女は空中で踏ん張っているけれどそれも一瞬のこと、彼女の小さな体では私の重さに耐えることができない。
 私を飲み込もうとして奈落がぽっかりと口を開けていた。もう終わりだ、と。どこか他人事のように足下を眺めていれば伸びてきた手が私の腕を掴んだ。力強い腕が崩れた足場から私を救い出す。よく知る香りが近くで漂い、アルハイゼンさんが私を引っ張り上げたのだと理解した。
 体を鍛えているにしても人ひとり片手で持ち上げるのは負荷が大きかったのだろう、私を引き上げるときの勢いを殺せずに彼は地面に座り込む。彼の脚の間でしばらく呆然とする。ハッ、と息を吸い込んで、ようやく恐ろしい体験をしたと体が実感しはじめたのだった。

「だっ大丈夫か? ごめんな、オイラがもっと気をつけてれば……!」
「いや、助かった。おまえが稼いだ時間のおかげで対応できた。素晴らしい飛行能力だ、感謝する」
「えっ……へへ、照れるぜ。アルハイゼンが素直だとなんだか調子が狂うな」
「恐縮することはない。当然の称賛と感謝だ、受け取れ」
「急に上から目線に戻るなよ!」

 ぷりぷりとパイモンが腹を立てているのを旅人が宥めていた。それを呆然と眺めながら血の気が引いた気分の悪さをやり過ごしていると、ふいに私を抱き締める力が強くなる。抱き寄せられた胸元から激しい心音が届いた。見上げると、安堵を絵に描いたようなほっとした表情を浮かべる彼がいた。良かったと、掠れた声でアルハイゼンさんが零した。

 次は足場を踏み抜いてもすぐ対処できるように、とアルハイゼンさんに手を差し出され、私たちは手をつないで道を進む。緊張が高まるなか、私のことをよりいっそう気がけてくれるようになった彼とパイモンさんが先ほどからずっと地面の崩落について原因を推測しあっている。
 学生時代には『蒸発反応が見せる虚像現象を用いた資源保護の可能性』『二次エネルギーを活用した錬金反作用』といったプロジェクトに参加してきた。エネルギーを扱う研究には何故だか大小様々な爆発がつきものだから、多少の危険に対する対応力はあると思い込んでいたのかもしれない。
 知識のない冒険者でも秘境探索の依頼を受けるのだから、彼らにとっての経験を知識で補えばいい。そんな傲慢さが一切なかったかと聞かれると、完全には否定できなかった。考えの甘さが彼らに不要な心配をかけさせる原因になってしまったと、思い上がっていたことを反省した。

「見て、光が見える」
「セノ、ついに出口だ!」

 旅人が口にするのと、どこかからカーヴェさんの声が聞こえるのは同時だった。声が聞こえてきた方角に顔を向けると、セノとカーヴェさんが同じように私たちを見ている。どうやら分岐していただけでどちらを通っても終点は同じだったようだ。
 二人とも私の周辺に厳重な警備が敷かれていることにすぐさま気づき、何が起こったのかを尋ねた。アルハイゼンさんが元素力が満ちた秘境の経年劣化に関する定性評価を、パイモンがいかに飛行能力を持つ相棒が秘境探索に価値をもたらすかを代わるがわる説明する。私の身に起こったことを察すると大事なくて良かったと二人とも胸を撫でおろした。再び六名に戻った一行で光を求めて先を進む。
 とても目を開けていられないほどのまばゆい光に視界を覆われた。ようやく光がやんだとき、空と雲そして一面の花畑が見えた。

「なんて素晴らしい景色だ……」

 だれかがそう口にする。よく見たことのある、だけど存在しない花。かつてスメールを共同で統治した三人の王、そのひとりである花の神がつくりだしたとされる絶滅種。赤いパティサラが存在した。
 だけどひときわ強い風が吹いて赤いパティサラを散らす。舞い上がる花弁が視界を覆うなかに、三つの影を捉えた気がした。突風が止んだころに広がっていたのは夢の跡だけだった。



「おはよう。みんなよく眠れたかしら」

 秘境を出るなり草神様はおかしな一言を私たちに投げかけた。旅人のみが意識が明瞭な様子で「すごく綺麗だった」と感想を口にする。
 あの秘境は草神様が持つ夢境の力によって生み出されたものだった。非実在の景色が実在の景色に交じっている、と感じたのは半分は夢で構成された秘境だったからなのだ。世界樹の汚染を除く試みの過程で生まれたものだろうと草神様は語った。
 人は物理的空間と心理的空間の狭間で夢をみる。夢のなかでリアルな五感と思考力を保持していたのは、過去の草神様がそうあるべく空間を定義したからなのだ。新たな知見を得たことに感嘆の声を漏らす。
 もう遠い過去のことなのだけれど、と草神様は続けた。もう遠い過去のことなのだけれど、私が忘れてしまった夢があった。それをなかったことにするのは切なく、だけど夢を代わりに叶えることも正しくない。だったら彼らと見た美しい夢を民に与えようと考えた。夢をつないでいくために。
 まずは私を救ってくれた賢者たちに、と彼女は微笑む。大切なものを抱きかかえるように胸の前で両手を握る草神様を見て、瞳の奥が熱くなっていった。

「君はあそこが夢の中だと知っていたのか?」

 アルハイゼンさんが旅人に尋ねる。旅人は頷いて「一緒に夢境のなかで起こった事件を解決したことがあるんだ。そのときの感覚と同じだったから」と返した。とはいえども、夢境は夢であって夢ではない。アーカーシャが民の英知を束ねる機能を有していたように、彼女がわたる夢境の力は現実にも影響を及ぼす力がある。だから私が落下しかけたときは旅人も肝を冷やしたと言う。
 草神様も深刻に捉えていたようで丁寧な謝罪をされた。裂け目を流れる星に惹かれて一人だけ別行動を取ろうとした私にも非はあると伝える。星と深淵を覗こうとした私が無事に戻ってきたことを知り、草神様は深く安堵していたのだった。



 秘境探索にはかなりの時間を要したらしい。朝早くに出発したというのにシティに到着したときにはほとんど日が傾いていた。道中は彼の口数が少なくて不安だった。各々が教令院に戻ったり自宅へ戻ったり酒場に行ったりするなか、彼が私の家に泊まっていきたいと言う。もちろん構わないので、疲労も溜まっていたことだし近場の店で二人分の食事を調達して帰ることにした。
 猫の世話をして、夕食を済ませ、汗を綺麗に洗い流して。明日の準備は起きてからでいいかとベッドに倒れ込む。追うように潜り込んできた彼が、私を抱え込むように密着してくるのがあまりに不自然だった。
 彼は到着してから一度も本を開かず、何かを考え込んでいた。私の問いかけに対しても間をおいて答える。彼の浮かない顔が、ずっと不自然で気になっていた。

「……アルハイゼンさん、怒ってますか? 秘境で私が迂闊な行動を取ったこと」

 上を向いても彼の顔は見えない。代わりに頭上から低い声が聞こえてくる。

「怒ってはいない。君は秘境探索をしたことがないわりに十分注意していた。君を危険に晒した責任が俺にあるわけでもないから、自分を責めているわけでもない」
「でもどこか不機嫌そうに見えますよ」
「……そうだな、たしかに余裕がない。他責でも自責でもない、苛立ちとも違うこの感情がなんなのかをずっと考えていたんだ。──おそらく、恐怖だと思う」

 彼の答えに目を瞠る。彼でも分からないことがあるのだとか、やけに素直に弱さを見つめるものだとか、そういったことではなく、彼の一番やわらかい部分をこんな形で明かされることになるとは思わなかったのだ。
 彼は過去を語らない、自身について多くを語らない。人付き合いが生活の必需品ではないという持論からも窺えることだが、彼にとって物事の進行に必要なのはあくまで信念や手段であり人間性や昔話ではないのだ。だからこうして彼のプライベートな距離に入り込むまでは、私は彼の主張しか耳にしたことがなかった。
 謎に包まれている彼の私生活が明らかにされていくたびに、いつかは彼の過去を知る機会も増えていくとは感じていた。だけど、それが私の安全が脅かされるのがきっかけだなんて思いもしないだろう。

「俺にはもう家族と呼べる人たちがいない。両親は幼い頃に事故で、引き取ってくれた祖母とも数年前に別れを告げた。予期せぬ死にも、予期できる死にも経験がある」

 彼の声がわずかにくぐもる。枕に頭を深く沈め直したようだった。

「死は、だれかの人生に空白をつくることだ。たとえば出勤中にすれ違っていた犬の散歩をしている人間がいなくなる。プロジェクトの事故によっていつもより書類仕事が回ってくる。店主が身内の葬儀で数日店を閉める。まったく関係のない他人の死すら、俺の日常に空白をつくる──『安定』を望む者にとって些細な変化は『不安定』な状況を生みだすんだ、それが愛する人であればなおのことだろう。……落ちていく君の手を掴んだときの感覚が、まだ消えない。だから俺がいつもどおりじゃないのはそのせいだ。何度間近で死を眺めようともあの空白に慣れることはない」

 身じろぎすると案外彼の腕は簡単に拘束をゆるめる。それをいいことに背中をめいっぱい反らして彼の顔を覗き込んだ。あわい色の髪の向こうで赤いパティサラが咲いている。
 彼に家族の話を聞くのは初めてだ。彼に家族がいないと知ったのも。だからきちんと彼の瞳を見つめていたかった。彼は彼自身が思っているほど話し上手ではない。だけど彼の瞳は、ときに口よりも雄弁に心を語るから。

「関わった人を完全に忘れ去ることができないように空白を消すことはできない。人がだれかに取って代わることができないように、空白を別の何かで上書きすることはできない。人が空白になったら空白がそこに居座り続ける」
「……家族の死は、空白はどうしたんですか?」
「共に生きることを選んだ。その空白に彼らとの思い出を書き込みながら感情を整理するんだ。君にも覚えがあるだろう、論文を書くためにペンを取ったとき──散らばっていた物事が整然と並び出す、あの冴えわたる感覚を」
「……ごめんなさい」
「それは何に対する謝罪だ?」
「貴方の心にちいさな空白をつくってしまったこと」
「君は死ななかったんだ、だからこれは俺の問題だ。……だが、もし贖罪をしたいというなら約束してくれるか」
「約束……?」
「どうせいつかは生まれる空白なら、いつまでも読み返したいと思えるような、やさしい空白になってくれ」
「……約束、します」

 投げ出された指先を絡め取る。瞳が零れ落ちるのではないかと思うくらい彼はゆっくりと瞬きをした。水の膜が張るその瞳に唇を寄せると、ようやく夜の帳が下りていく。

「眠っているのかもわからないほどゆるやかに老いたい。朝、日の光よりもまず隣で眠る君を感じたい」

 夢をみるような顔をして彼は言った。プロポーズなのかな、と考えて、それ以外にないかとすぐさま考えを改める。私はもう、彼の人生に数えきれない空白をつくる存在なのだと言われたも同然なのだから。
 手を伸ばして彼の頭をかき寄せると、半ば眠りに落ちているようにも見えるアルハイゼンさんがくすぐったそうに口元を動かした。背を丸めて、そうして安心しきった子どものように、眠った。

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