学業

※『街角』の続き

 怪我をさせてしまったお詫び。そういう体で誘われた食事はつつがなく終了し、平穏な日々が続いていた……が。
『試験どうだったんだよ』
 どうしてか連絡を取り続けていたりする。
 特にやりたいこともないから、とやることがない理由をつけて大学へ進学したのはまだ記憶に新しい。一通りまともに授業は受けていたつもりだったのだが、さすがに煮詰まる部分は出てくる。試験も近いからと予習復習をしていたころ、まあ色々とあって爆豪さんと近況報告みたいな話になり、勉強を教えてもらうことになったのだ。試験は数日前に終わったのだがそれがこうして続いている。ほんと、どうしてこうなった。
「わけがわからないのが数問出ました、っと」
『授業終わってんなら寄る 試験用紙に目通しとけ』
 暇じゃないのにありがとうございますって感じだ。

 第一印象こそ顔が怖いの極みだった爆豪さんだが、最近ではその印象が塗り替えられつつある。まず顔はさほど凶器的ではなかった。むしろよくよく近くで眺めるとイケメンだった。次に頭が良い。そもそもヒーローには、学生時代に優秀な成績を納めていた人が少なくないらしいが……なんと爆豪さんは、あの超難関校、雄英のヒーロー科を卒業していた。毎年倍率が恐ろしいことになっているのはもちろん、そのせいで偏差値までぐんぐん跳ね上がっている学校だ。エリートか。
 彼は口が悪い。それを助長させているのは完璧主義だった。やる以上は抜かりなく完璧に。言うのは簡単だが実際に成し遂げるのは難しい。大抵の人間が人生で妥協することを覚えるなか、彼だけはそうしなかったのだろうなと思えることが度々あった。本人もそれは自覚していて、成し遂げてきた自身に絶対の自信があるから周囲に対して口が悪くなるのだろうな、なんて考えている。
 そして面倒見がいい。こうしてたった一度巻き込んでしまっただけの一般人をずっと面倒見るなんて普通ありえない。しかも怪我の面倒を見るのではなく勉強。学生を終えたにも関わらず他人の勉強を面倒見るなんて。
「え、誰。なまえの彼氏?」
 もう何度目か知れない質問に項垂れた。爆豪さんは悪い人じゃないけど、結構キレやすいからあまり刺激してほしくないのだ。
「待ってその人ヒーローの……」
「うそ!私ファンなんです、サインもらえたりってできますか!?」
 ファンなんて初耳なんだけど、と友人を見るが私のことなど完全に意識の外のようだ。爆豪さんをきらきらとした目で見つめている。
「まだ考えてねー」
「じゃあ握手だけでも……!」
「おう」
 爆豪さんがファンサしてる……。今度は私が見つめる番だった。
 先日「映画のチケットあるからやる」と連絡が来て、てっきり券だけ渡されるものだと思っていたら二人で映画を観て帰ったという不思議体験をしたのだが、その日男性のファンに声をかけられると「あ”?」の一言で会話を断ち(何故か喜ばれていた)、メディアに捕まると「プライベートだ!失せやがれ!」と沈めていた(「くっ、ガードが高い……!」と悔しがっていた)。そのため、爆豪さんはファンサービスの類をする気はないのだと思っていた。
 下世話な話だが、もしかして爆豪さんは友人のような女性がタイプなのだろうか。応援の言葉をかけている友人に無愛想ながらも返事をし続けている爆豪さんを見て考える。好きな女性に優しい爆豪さん……?知り合って日が経たないとは言え、いまいちピンとこないワードに頭を捻った。そもそも女性と休日に出掛けたりだとか、部屋でのんびり過ごしているのだとか、敵に攫われた想い人を颯爽と助ける爆豪さんなんていうのが想像できな……。あれっ、想像できるな、どうしてだろう。ああ、粗方自分が経験したことだった。
「……?……??」
「何ボーっとしてんだ、行くぞ」
 どうして私は爆豪さんとそんなことを経験しているんだ?と先程以上に頭を捻っていると、怪訝な顔をした爆豪さんに声をかけられた。どうやら友人との握手会は済んだらしい。やけに上機嫌な様子で友人が手を振っていた。
「爆豪さんってファンサするんですね……」
「は?」
「イエナンデモ」
 眉にぐっと力を込められて即レスした。私とこうやって連絡を取り合っているのもファンサービスだったりするのだろうか。それにしては、私と会うときは「プライベート」らしいしなあ……。謎は深まるばかりだ。

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