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おいしい毒りんご

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 白雪姫って話を知ってるかい?僕が聞くとなまえは子どもっぽく頷いて笑う。
「そんなの小さいころからずっと知ってるよ、お姫さまって女の子の憧れだもの」
 シンデレラとか人魚姫とか眠り姫とかもね。なまえはいつも話をする時に目を逸らさない。まっすぐに見てくる瞳がキラキラしていてとってもかわいい。
「キスで助けてもらえるなんてなんだかとってもロマンチックだよね」
「なまえはそういうの好きだよね」
「うん。というかね、ステキな自分の王子様に出会えないかなぁって女の子は心の中でずっとお願いしてるものなんだよ」
「そうなんだ」
「そうなの」
「なまえも待っているの?」
「え?」
「王子様」
 僕の言葉になまえの薄ピンクの頬がピンク色に変わった。逸らす、とまではいかないけれど少しだけ視線が右にずれたのが胸にチクリと引っかかる。
「待っ、て…た。うん、前はね」
 前は?
落ち着かない瞳は僕を捉えない。なまえの照れた顔はかわいいはずなのになんだか見ていてとても嬉しくない。
「なまえがお姫さまなら僕は魔女がいいな」
「え?」
 驚きを浮かべたなまえの焦点が僕の目に合う。
「僕は魔女になりたいな」
「…魔女?」
「うん」
 そう、王子なんてそもそもいらないんだ。僕なら絶対姫を追い出したりもしないから。
ふと気が付くと紅潮していたなまえの頬が白い。そしてゆっくりと僕から目を逸らして俯いてしまう。どうしたの?どうして僕のこと見てくれないんだろう。
「なまえ?泣いているの?」
 僕が聞くとなまえは泣いてないよと顔を上げる。震えるまつ毛は泣いているようだったけど、本当になまえは泣いていなかった。
「毒りんごっておいしいのかな?」
「美味しくないとおもうな」
 出来る限り優しく答えるとなまえはじっと黙り込む。
「どうしたの?」
 俯きがちな頬を両手で挟んでおでこにおでこを寄せる。素早い瞬きを繰り返すなまえは「うん」と口を開いた。
「でもね、私はおいしくなくってもきっと食べちゃうんだよ」
 なまえはきっと今度こそ泣いてしまう。そんな瞳でも真っ直ぐ僕を見ようとするなまえがなんだかかわいそうで、それでもとっても可愛くて、僕はその目元にそっと唇を落とした。


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