YU-GI-OH
白の天使

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「璃緒ちゃん、かわいいね」
 薄いビニールから白い円柱のお菓子を摘まみかけた璃緒ちゃんは驚いた顔で私を見つめた。
「…どうしてそんなこと言いますの?」
「だって、璃緒ちゃん嬉しそう」
 私の丸っこい指と違って細長くて綺麗な(きっと白魚のように嫋やかっていうんだろう)指でさっきからマシュマロを口に運ぶ璃緒ちゃんは、明らかにずっと機嫌が良い。もちろん、いつもみたいに凌牙くんと一緒にいる時だって機嫌は良いんだけど、そうじゃないのに今日はなんだか嬉しそうだ。
考えられる理由といえば…凌牙くんがいないというのはお兄ちゃん大好きな璃緒ちゃんとしてはむしろマイナスだろうし…。いつもと違うお菓子の存在が原因なんだと思う。
ふにふにする、甘いお菓子。私は焼くのが好きだけど、そのままでもおいしいのがマシュマロだ。ご機嫌にお菓子食べてるのを見ると、氷の女、だとか言われてるけどやっぱり璃緒ちゃんだって私とおんなじ女の子なんだなって思う。いっつもお姉さんみたいな璃緒ちゃんが子供っぽい顔をするのは、なんだか微笑ましいっていうか…そう、かわいい。
 思わず笑っちゃうと璃緒ちゃんはちょっぴり目を逸らしてから笑う。これはお姉さんの顔だ。
「そうね。だって、これとても美味しいんですもの」
「えー?そんなに?」
 変な言い方だけど、ただの…マシュマロが?疑わしい目で見るけれど、璃緒ちゃんは澄まし顔。
「嫌ですわ、なまえは私の言うこと信じられませんの?」
「そ、そんなことないよ!璃緒ちゃんのこと、私、誰よりも信じてるよ」
 私が勢い込むと、一つ二つとはっきりした瞬きをしてから「そう」と呟いて一度目を落とした。照れちゃったのかちょっぴり目のあたりが赤い。今日の璃緒ちゃんはやっぱりなんだかいつもよりかわいい。
…それはそうとして、璃緒ちゃんの言うことが本当ならそのマシュマロの美味しさがとても気になる。
どう見ても普通のマシュマロと変わらないのに…。
「…なまえ、欲しいならそう言わなくちゃわかりませんわ」
 ハッとして視線を上げると、片手に袋を持ったままの璃緒ちゃんがクスリと笑う。そんなに物欲しそうに見てたのかな。お腹が空いていた子供みたいでなんだか恥ずかしい。
「う…璃緒ちゃん、ほしいよう」
「あら。…ふふっ、もう一声」
「ああんもう!璃緒さまぁ!マシュマロお一つ下さいな!」
 ヤケになって声を大きくした私に大人っぽい笑い声が上げる。一頻り笑った璃緒ちゃんは立ち上がって私を見下ろした。
「さあ、目を閉じてご覧なさい」
 なんで、とも思ったけれど欲しいから言われた通りにする。少しの間を置いて、ふにふにした感触が私の唇で遊ぶみたいにつんつんと何度も触れる。口を開けてみたけれど、パンを突つく小鳥みたいな動きを繰り返してからそれは離れる。そう、璃緒ちゃんの気配ごと…。
 …ん?
「えっ、くれないの!?」
 慌てて目を開けると、璃緒ちゃんは澄ました顔でマシュマロを口に放り込むところだった。
「あら?私、あげるなんて言ってませんけれど?」
「そ、そんなあ…」
 じゃあ、なんであんな寸止めみたいな…。
しょぼくれる私に小悪魔みたいに笑ってマシュマロの薄い粉が付いた唇を舌で舐める璃緒ちゃんはやたら色っぽい。虚しくわたしも唇を舐めるけれど飢えた犬みたいな気持ちになるだけだった。


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