YU-GI-OH
Phecda

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 テクノロジーが進化しきった今時は、あんまりラブレターなんてものは見かけない。だからこそ机から見つけたシンプルでかわいい封筒は、それだけでなんだか私にとってすごく特別なものに見えた。
「あら、なまえ何を持っているの?」
「あっ、璃緒ちゃん」
「…ラブレター?駄目よこんなの、絶対に駄目!」
「あぁっ!」
 ビリーッて璃緒ちゃんがかわいい封筒を真ん中から二つに破いてしまう。
まだ、見てないのに!慌てて手を伸ばすけれど、私よりも背が高くて腕が長い璃緒ちゃんは私が届かないような遠回りをして手紙を丸めてポケットにしまってしまう。ああ…。
「もう!こんなのはいいから恋人が欲しいなら凌牙にしておきなさい!」
「りょ、凌牙くん?」
「あら、もしかして凌牙は嫌?」
「そ、そんなことないけど…!でも、でもそうじゃなくて誰かせっかく好意を」
「だ、め!なまえの場合、相手からそういう好意を持って来る奴だけは絶対に絶対に相手にしちゃ駄目なの!」
「ど、どうしてよう…」
 相変わらず、すごい迫力。昔から見慣れてるはずなのに思わずしどろもどろになると璃緒ちゃんは困ったような怒ったような、微妙な顔になる。
「あなたを好きになる男ってとことん変な奴ばっかりだから」
「えーと、…何それ?」
「あ、凌牙は別よ、だから凌牙にしておきなさい」
 変なヤツも好きになる男にも思い当たることがなくて思わず首を傾げる私に璃緒ちゃんが一生懸命凌牙くんのフォローを入れてくる。うん、うん。知ってるよ、凌牙くんはかっこいくて…あ、うん、でもその彼氏とかそういうのは…いや、嫌いとかじゃなくて…ね?


 お兄ちゃんのセールスポイントをいっぱいいっぱい教えてくれた璃緒ちゃんと、一旦バイバイして私は図書室へ向かう。今日中に借りた本を返さないと怒られちゃう。
 少し早足で階段に向かう。そして。
「なまえせんぱぁい!」
「きゃっ!?」
 いきなり横から飛び込んできた元気な声にびっくりしすぎて、抱えていた本が落ちる。ああ…。そこまで驚いた自分に自分でもびっくりしていると、すぐ近くで私を呼んだ真月くんもびっくりしたみたいに瞬きしていた。
真月くん、口癖はちょっぴり変でも、優しくってかわいい後輩。年下の男の子に呼ばれただけでびっくりしすぎて本を落とすなんてなんだか恥ずかしい。
誤魔化す照れ笑いをしながらしゃがむ私に合わせて真月くんもしゃがんで本を拾ってくれる。
「…えへ、なんかごめんね」
「いいえ、僕こそごめんなさい。よかれと思ってお手伝いします!」
「わ、ありがとう」
「どういたしまして!」
 拾った半分を持ってくれた真月くんは当然のように「図書室ですね!」って私の手をぎゅって握る。小さい頃は凌牙くんと手をつなぐこともあったけど、最近は男の子と手をつなぐことはないからなんだかくすぐったい。
真月くんは私の借りた本のタイトルを見て「わあ」って声を出した。
「なまえ先輩って星が好きなんですか?」
「うん!好きだよ!」
 とは言っても星の知識があるってわけじゃなくて、私はどっちかといえば見るのが好きなんだけど。なんとなく照れちゃってでれでれ笑う私に真月くんも笑う。
「…ねえ先輩、北斗七星の星の名前ってしってますか?」
「え?えっと、名前とかは私、そんなに詳しくないんだけど…」
 言い訳を呟くけど、真月くんは待ってるみたいににこにこしたまま黙ってる。しかたないから一応覚えようとしたことはある星の名前を頭の奥から引っ張る。
「んと…確かドゥべ、メラク、…ミザール?ん…アリオト…アル、コル…はちがくてアルカイド!…メグレス?あと…」
「ベクター」
「ベクター?…ん、あれ?似てるけどちょっと違うかなぁ、確かフェ」
「ベクター」
「…ベクター?」
 たしかフェクダ、だった気がするけど?
「もう一回よんでもらえますか?」
「?…ベクター?」
 お願いされたとおりにもう一回言うと、じいっとしてる真月くんの紫色の綺麗な目がきらきらと星みたいに輝いて見える。なんだろう、何か思い入れのある言葉なのかな。
「ええと、真月くん?」
「はい!なんでしょう」
「ベクターって、なあに?」
 きょとんとした真月くんは、花が咲くみたいにゆっくりとかわいらしい笑顔になった。
「僕を嬉しくさせる魔法の言葉ですよ、先輩」
 よかれと思ってまた言ってくださいね!って私の手をぶんぶん振る笑顔の真月くん。痛いくらいに肩の関節を動かしながら、もしかして真月くんってちょっとだけ「へんなひと」なのかもしれないな、なんてこっそり考えた。


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