YU-GI-OH
chase a rainbow

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※卒業後

 キィキィと軋む鎖の音が人影のない公園で物悲しく響く。踵を地面に置いたままブランコごと体を前後させていたなまえは、自分の馬鹿らしさを鼻で笑って手首に嵌めた腕時計で時刻を確かめた。
実際の待ち時間は数時間なんてかわいいものじゃない。見返すならカレンダーの方がよっぽど確かだというのに、そうしてしまうのは人の性だろうか。
自分を照らす可哀想な程に薄っすらした蛍光灯の光がふと途切れて、なまえは顔を上げる。
「…こんばんは」
「こんばんはお嬢さん、お隣よろしいですか?」
「どうぞ、ご勝手に」
 冷めた声で許可するなまえを少しだけ見下ろしてから、青年はなまえの隣に下がってあるブランコへ腰を下ろした。軋む鎖の音が高く響く。
「こんな時間にお一人だと危ないですよ」
「ご心配なく。たとえ、今あなたが手を出してきても薙ぎ払うくらいの心得はありますから」
「それはそれは」
 苦笑した青年は太腿に肘を付き、なまえの横顔を眺めた。
「…誰かお待ちで?」
「ええ。勝手にどっか行った上に連絡一つ寄越さない、可愛げのかの字も優しさのやの字もないような冷酷で馬鹿な放浪男です」
「それはひどい男だ。きみのような人を置いてどこへ行ったんだか」
「さあ?虹の根元にある宝物でも探しに行ったんじゃないですか」
 ロマンチストとも取れる言い方ではあるが、なまえの冷たい口調はそれを夢見ている様は微塵も感じられない。苛立ちを爪先に込めて土を掘る隣人に青年は首を傾けた。
「冒険家なんですね」
「いいえ、向こう見ずでどうしようもない奴なんです。虹の端っこなんて世界のどこにもないのに」
「そうでもないと思いますけど」
 否定の言葉を放つ口を睨むが、けろりとした表情が崩れないことにわざとらしく大きな息を吐いてなまえはほの明るい蛍光灯を見上げる。
「旅人さん、旅って楽しいものですか?」
「さあ?少なくとも結構気楽なものですね」
「ふーん。で、虹の根元も見つけましたか?」
「ええ」
「ほーお、そりゃ重畳ですねぇ」
「と、いうより」
 一度大きくブランコを漕いでから青年はなまえを真似るように蛍光灯を見つめた。蛍光灯に照らされて輝く瞳になまえは小さく舌打ちする。聞こえなかったのか聞かなかったのか、笑みを消さない横顔は続けた。
「虹なんて何処にだって出来るんだから、根元っていうのはどこにでもありますよね。ここだって時によっては虹の根元ですし」
「へーえ、あなたってロマンチストでリアリストなんですねぇ」
「そうですか?」
「ええ、どこもかしこも虹の根元だとか言うくせに旅人だとかいうあたりが」
「ははは。いや、宝物なんていざ離れてみたら意外と身近にあったりするってことですよ」
 快活な笑い声に応えて笑顔を浮かべ、なまえはゆっくりと唇を開いた。
「言うことはそれだけか」
 どこまでも低く押し殺すような声に笑顔を消した青年は、まじまじとなまえの足先から頭のてっぺんまでを見つめた。
「…いやほんと、お前よくずっと待ってたよな」
「…あんたが言うんじゃないわよ!」
 転がり落ちたような勢いで木の板から立ち上がったなまえが振り上げた平手に身を竦めた十代は、その手が途中から力なく首に伸びて来たのを見て、笑いながら愛しい体を抱きしめた。


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