YU-GI-OH
chain gang

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 なまえが朝早くから呼び出されて向かったレッド寮の食堂には、時間帯のせいで当然ながら呼び出した当人しかいなかった。おざなりに挨拶をしながら隣に座ろうとすれば、正面に回って欲しい旨を告げられなまえは仕方なく三、四歩歩数を増やして椅子へ座った。剣山はそれを待って口を開く。
「おかしいドン」
「うん、剣山くん朝早いドンね」
 なまえが肘をついた掌に自らの顎を乗せたままからかう口調で言うと剣山はそれを睨みながら立ち上がり、人差し指を突き付けた。眠気の残ったなまえの目がそれに真っ正面から対峙する。
「浮気してるザウルス!」
「ほう、誰が」
「なまえ先輩しかいないドン!」
「はあ」
 半ば欠伸の混ざった声に剣山は拳を震わせた。
「ひ、否定しないドン…」
「あ、ごめん…」
 「あんまりにも突拍子なかったし眠いし」と言い訳を続ける前に剣山は大きくよろめく。相変わらずリアクションの大きな子だとなまえはぼんやり考えた。
「そりゃあアニキはいい男ドン…」
「十代?うん…?」
「でも俺の告白は何だったドン!なまえ先輩は俺の気持ちを弄んだだけだったドン!?」
 机を叩いて詰め寄る姿はまるで男に別れ話を切り出されて食ってかかる彼女のようだ。
なまえは十代相手に「浮気」と評されるような出来事が最近あったかどうか、大して働こうとしない頭を懸命に動かす。「浮気」そのものに心当たりはないが、少なくともそう思われるようなことはあったはずだ。
しばらくの無言。自分の疑問さえ否定されないことに剣山が内心ハラハラしていると、なまえは顔を上げて手を打った。
「ああ、わかった。十代の部屋で一晩明かした話か」
「…先輩、今それザウルス?」
 ここまで来て話題の当人から話に水を差され、剣山は少々動揺を見せた。それを知ってか知らずかなまえは視線を落としてため息を吐いた。
「あれね、デュエルで負けちゃったから宿題手伝わされたの。朝まで。一睡も出来ず。ずぅっと」
 いちいち挟む区切りと低くなった声に十代への恨みを感じる。憎さあまって、という様子もなくやや据わった目の彼女に剣山はそっと胸を撫で下ろした。
「それならなんで途中で逃げなかったドン」
 答えはなんとなくわかっている剣山は一応形式通りに尋ねた。なまえは覚めて来た目を瞬かせ、顎を引いて剣山を見る。
「うーん、それはそれで…後々のこと考えると面倒だったから…」
「…なまえ先輩の面倒くさがりは俺もよく知ってるザウルス」
 早とちりして悪かったドンと明らかに肩を落とす剣山に、流石のなまえも悪い事をしたという気持ちが強くなった。「私こそごめんね」と改めてはっきりした謝罪を述べて剣山の様子を伺う。
「…どうしてなまえ先輩は俺と恋人になってくれたドン?」
 恨み言というよりは心底不思議そうな声だ。
なまえは面倒くさがりで人間関係も非常に希薄である。剣山としてもなまえへの告白は玉砕覚悟というより玉砕前提で向かったほどだ。
まさか「断ることさえ面倒だったから」とかそういう話だろうか。胡乱な剣山の眼差しになまえは斜め上を見据えて腕を組んだ。
「えーと、剣山くんってなんか面倒で早とちりで優しい子で頼りがいある子で…」
 剣山の特徴を言い列ねようとしたらしいなまえは面倒になったらしく、そこで「うーん」と止まってから首を振った。
「でも、剣山くんなら私、鎖に繋がれてもいいなあって思ったから」
「え、それは、…それはどういうことザウルス…?」
 告白の際にただの肯定の言葉を投げかけて以来、なまえが何がしかの好意があるらしい言葉を口に出すことは初めてだった。
じりじりと熱が頬に上がってくる事を自覚しながら剣山は身を乗り出した。一つ後輩である彼氏のずいぶんと可愛らしい言動にになまえは自然と唇を緩ませる。
「たとえどんなに面倒くさく振り回されたってまた自分から剣山くんの傍に行けるくらいには好きだなって思ったってこと」


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