YU-GI-OH
keep off

main >> YGO


 真月くんってどんな子?
 私が尋ねると小鳥ちゃんは橙色の目をそれこそ小鳥みたいにぱちくりさせた。
「えっ!なまえって真月くんと話したことないっけ?」
 うん。イチゴミルクのストローを噛みながら頷くと小鳥ちゃんは「こら、お行儀が悪いよ」ってお姉ちゃんみたいに怒る。
「うーん、なまえと真月くんってとっても気が合いそうだけど…。うん、真月くんのこと気になるならなまえが自分で話すのが一番だと思うよ」
 言って、私から目を離した小鳥ちゃんの手を掴む。…小鳥ちゃん細い。
少しだけ心のライフポイントを削られた私の無言の制止に、教室を見回そうとしていた小鳥ちゃんは眉毛をハの字にした。
「なまえどうしたの?」
「…真月くんこわいの」
「…なにかされたの?」
 周りに聞こえないように、って不安そうなひそひそ声。小鳥ちゃんはとっても友達思いだ。どうしてこんないい子が遊馬を…とは思うけど遊馬だって友達思いないい子でもある。だからいろんな人に好かれる。周りにいつも誰かがいる。私とは違う。そう、私と遊馬は絶対に似てない。
「なんにもされないよ」
「…なにもされてないのに怖いの?」
 「真月くんはいいこだよ」って小鳥ちゃんは心底不思議そうだ。
そりゃそうだ。どこかのシャークさんなら「なんとなくこわい」っていっても納得されるだろうけど、真月くんはそうじゃない。真月くんはべつに怖そうな顔をしているわけでも、近寄りがたい雰囲気をしているわけでも、話しかけたら睨まれるわけでもない。(シャークさんが睨んでるつもりなのかはしらないけど)
 むしろ真月くんは人懐っこくて遊馬が大好きで、よかれと思って人のために行動するよいこなんだ。でも私には真月くんは昔、絵本で見たおばあちゃんの服を着てベッドに寝ている茶色いあれに見える。
 私は小鳥ちゃんと仲良しだ。遊馬とも仲良しだって思う。アストラルとだってそれなりに仲良しだと思う。でも私は真月くんとは仲良しじゃない。私は真月くんがこわい。
 だって真月くん、どうして私に話しかけようとしないんだろう。私が怖がってることわかってるのかな、鈍感そうなのに。
真月くん、なんで今イチゴミルク飲んでるんだろう。育ちも良さそうなのにストローまで噛んで。どうして真月くんは私と同じペンを持ってるんだろう、いつから私と同じ消しゴム持ってるんだろう。
 真月くんは私に何もしない。
それなのに私は彼に鉛のカーテンで押し潰されてるような怖さを感じる。どうして小鳥ちゃんは私と真月くんの気が合うって思ったんだろう、どうして私と真月くんが話したことないのにおどろいたんだろう。私はこわい。
こんな、なにもされない怖さがあるってことを小鳥ちゃんには永遠に知らないでほしい。
「なまえ?どうしたの?」
「ううん、ごめんねぼーっとしてた。…そうだよね、真月くんはいい子だよね」
「うん、…きっとなまえも仲良くなれると思うんだけどな」
 怖いっていう私を知って、控えめな笑顔を浮かべる小鳥ちゃんに曖昧に笑いを返しながら私は中身のなくなった紙パックからストローを引き抜く。私は紙パックは畳む派だ。今日はストロー噛んじゃったから縮めることは難しい。ストローの両端を掴んで力をいれると、教室のどこかからストローが二つになった軽い音がした。


- ナノ -