YU-GI-OH
だいすきのだいしょう

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注意・とてもヤンデレ



 ベッドから起き上がった十代はブーツの爪先で床を叩いて扉に手をかける。またあの女のところへ行くんだね。
「やめておきなよ十代」
「何が?」
「あの女のこと」
「なまえか?」
「そう」
 なまえ、小憎たらしい名前。
ボクの十代が最近熱を上げている女。ボクのことを知っても、ボクのことを見ても少しも動揺することなく十代を抱きとめた女だ。憎い。
「…ごめん」
 謝るくらいなら行かないでよ。
何度言っても無駄な呪いを胸の奥にしまい込む。ボクの妬ましさを知っていても十代はなまえのところへ行く。ボクと違っていつでもその実体を持つ人間、十代からの愛を当たり前の顔をして受け取るくせに同じだけのものを返そうとしない女。

 今日も十代がわざわざ部屋から出て向かってやったというのに当然のような顔をしている。
「十代はいいな、素敵な精霊さんたちに囲まれて。十代は精霊さんたちにとっても魅力的な人なのね」
 魅力的?そんなこと思ってもいないくせに。不満だけを募らせるボクと違って十代は少しだけ嬉しそうに笑う。
「そうだといいけど」
「そうよ、ねえユベルちゃん」
 軽々しく呼ばないでくれる?視線から背を向けるだけで答えないボクに十代の「しょうがないな」なんて声が突き刺さった。
 あの女がいなければボクだってこんな想いをしないのに。いや、せめて少しでもあの女が十代の想いに報いようとすればまだいいのに。でもきっと明日も明後日もあの女は十代の愛を受け取るだけだ。
なんて腹立たしい。

 そうだ、殺してしまおう。
昨日だって今日だってそうなんだからきっとこの先の未来だってあの女は十代の愛を返そうとはしない。だったら今、これ以上受け取らせないようにすればいいんだ。
そうと決まれば話は早い。実体化した身体でも人間と違ってボクならあいつの元へ忍び込むのだって簡単だ。人目の無い深夜、今日の内に殺してしまおう。

 ボクは計画を狂わせるのは好きじゃない。月が空の天辺から少し降りたくらいの時間に女子寮の中、なまえの部屋へと忍び込む。
そいつはこれから起こる事を夢にも見ていないような安らかな顔をして眠りについていた。生きている最後に見る夢は悪くないようだ。羨ましいよ、吐き気がするね。
あまりしたくはない格好ではあるが、女の体を跨いで首に手を伸ばす。寝ている間に首を締めてやろうと思ったから。
ところが、ボクの手が首筋に触れるか触れないかというところでその白い瞼が開いた。
 面倒なことになった。舌打ちをする暇もなく首を握る手に力を入れる。驚愕に見開かれた瞳が三日月みたいに歪んだ。
 苦しいのか、泣くのか?嘲笑ってやろうとしたボクの唇は真逆の方に曲がった。
女の手が首を掴んだままのボクの手首を痛いほどに握ったからだ。いや、これは痛いなんてものじゃない。ボクでも力を緩めた程だったからだ。これでボクがもし人間だったらその衝撃に藻掻き苦しんでいただろう。
それでもこの体制ではボクの優勢は変わらないしボクの心も変わらない。どうするつもりかとその女を見下ろせば、その表情はボクが想像したそれとあまりにもかけ離れていた。

 なまえの頬は恋する人間のように紅潮していたのだ。

「ああこれは夢の続きじゃない、私を見てくれてるのねユベルちゃん本当にここにいるのね嬉しい夢みたい、だいすきずっとずっと私こうして二人だけで会いたかったのユベルちゃん私しあわせ、ねえ私をもっとずっとあなたの近くに導いてくれるの?嬉しい、私のかみさま…」
 ボクの手を神から賜った聖杯のように両手で握り締めながら、ステンドグラスの天使のようになまえは笑った。
「だいすき、ユベルちゃん、ユベルちゃんユベルちゃんだいすきユベルちゃんユベルちゃんユベルちゃんだいすきだいすきユベルちゃんだいすきユベルちゃんユベルちゃん…」
 ボクにはなまえから手を離す事しか出来なかった。


 ベッドから起き上がった十代はブーツの爪先で床を叩いて扉に手をかける。そう、またなまえのところへ行くんだ。
「ねえ、本当にやめておきなよ十代」
「…何を」
「なまえのこと」
 十代は一瞬だけ覇王のように美しい瞳をしてから呆れた顔で笑う。
「ユベルと俺は魂で永遠に繋がってるだろ。なまえはそれとはまた違うんだ」
 違う、違うんだよ十代。十代はまだボクが十代となまえの仲に嫉妬してると思っている。違う、そんなんじゃないんだ。
 なまえは決して十代を愛したりはしない、出来ない。ボクはわかる。
ボクが十代の愛を求め続けたみたいになまえはボクの愛を求め続ける。ボクにはわかる。だって、なまえはボクと同じだ。
 だから、およしよ。ボクと十代が魂で繋がっているというなら、なまえとボクは愛で繋がっている。
十代にだって切れない、それこそ永遠の愛で。


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