YU-GI-OH
Shall we...?

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 その日、なまえはなんだか不思議な格好で現れた。
「うわっ、すげえ!懐かしい!」
「へっへーん」
 不思議なフォルムをした椅子にタイヤを付けた物からなまえは下りる。「懐かしいでしょ!」といつも以上に楽しそうななまえに合わせるように遊馬も楽しげな様子だ。…というより、遊馬はなまえがいると常にいつもよりはしゃいで見える。
「遊馬、それは何だ」
「乗り物だよ」
 そして、私に対する言葉はいつもより短くなる傾向がある。
「あ、アストラルあのね、これ一輪車!」
 私の声が聞こえたわけではないだろうが、遊馬の言葉から私の疑問を察したのだろう。なまえは遊馬を挟んで私と真逆の方を向きながら「イチリンシャ」という物の説明をする。ひどく不安定に見えるそれに人はバランスを取りながら乗るのが楽しいらしい。特別な乗り物を作ってわざわざ不安定さを求めるとは、人間とは興味深く不思議な生き物だ。
「なまえよくそんなの持ってたな」
「ほら、私は物が捨てられないタイプだから!」
「それ胸張るところじゃねーだろ!」
「いいじゃない。ねえ、遊馬も乗ってみて!」
「俺がぁ?」
 というものの、遊馬はなまえの願いは拒まない。
一輪車の出っ張りに足を引っ掛け、なまえが乗っていた部分に跨り勢い良く上体を起こし、そのまま前に転がった。
「いてぇ!」
「うわっ」
 足下に転がってきた遊馬になまえは目を丸くしてしゃがみ込んだ。
「ってェー…」
「大丈夫?」
「これ、案外難しいな」
「うーん、そうだね…いきなり…」
 探偵のようなポーズで考えたなまえは指を鳴らす真似だけした。無音の指を怪訝そうに見る遊馬に向かって身を乗り出すと、遊馬は少しだけ体温を上昇させて身を引く。
「そうだ、私が遊馬の手を引いてあげる!」
「は、はぁ?」
「遊馬、運動神経いいんだから絶対すぐ上手になるって!」
 ね!と遊馬を掴み起こしてなまえは一輪車を立て直す。
「一輪車と言うのはそこまでして乗らなければいけないものなのか?」
「………」
「ね、私がいるから」
 聞こえているはずの私の問いに遊馬は無言のまま、もう一度一輪車に乗ろうとする。挫けない性質の遊馬だが、先ほどの失敗を思い出すのか少し緊張しているように見える。
先ほどよりかは勢いの足りない乗り方に、後ろへ落ちかけた遊馬の手をなまえが素早くしっかりと握る。
「うわっ、なまえ、待っ…!」
「ほらほら、遊馬ぁ!がんばって!アストラルも応援して!」
「わ、わ、ちょっと待てって…!」
「焦るな遊馬、一応乗れているように見えるぞがんばれ」
「応援かそれ!?」
「レッツ!カットビングだぁ!」
「くそ、そうだ、カットビングだ俺ー!」
 なまえの言うとおり運動神経の良い遊馬はなまえの手を掴みながら、少々不安定になりながら姿勢を保っている。なまえの言葉とは違い、あまり楽しそうには見えないが、嬉しそうには見えないでもないのでこれはこれでいいのだろう。
「その意気ー!進むよ遊馬!」
「か、カットビングだー!」
「イチリングー!」
 両手を握り合って動きだそうとするなまえと僅かに前のめりな遊馬。危なっかしいが見守る人間もいない二人は、どちらも笑っているせいもあってか、まるで不恰好なダンスを踊っているように見えた。


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