YU-GI-OH
茨に棘

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 「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花」なんて諺があるけれど、アキちゃんはとてもお花みたいな人だ。
「アキちゃん、アキちゃん!」
「なまえ」
 振り返るアキちゃんの紅色の髪がお日さまの光の中で踊る。それはあんまりにも綺麗で私の足は思わず動きを止めた。
「おはよう」
「…あ、うん、お、おはよう!」
 慌てふためく私がおかしいのかアキちゃんは百合の花みたいに微笑む。
「そんなに慌てなくても私はなまえを置いて行ったりしないのに」
「わかってるけど、でも、…早くアキちゃんに会いたくって」
 馬鹿みたいに言い訳みたいな本音を零せば、ちょっと子供っぽい驚いた顔をしたアキちゃんはクスクス笑って抱き締めてくれる。
「なまえはかわいいのね」
「アキちゃんの方がずっと綺麗だよ」
 私は抱き寄せられるのに合わせてアキちゃんにぴったり寄り添った。高貴で甘い、アキちゃんの赤にぴったりな薔薇の匂いがする。きっと香水でもなんでもない、これがアキちゃんの匂いなんだ。
細いアキちゃんの指が私の髪を梳って離れていく。顔を上げると私よりも少し背の高いアキちゃんの顔が私を見下ろしている。
「アキちゃん、すきだよ」
「私もなまえが好きよ」
 桜の花びらみたいにふんわり触れるのは、女の子らしい柔らかい唇。アキちゃんがどんな顔をしているのか見るのが怖くて私はいつも目を閉じる。
アキちゃんのキスはとっても優しい。お母さんがちいちゃな子供にするみたいな、とってもかわいくて綺麗なくちづけ。それが嬉しくて、でもどうしようもなく心苦しい。
ごめんね、アキちゃん。私が抱えているのはアキちゃんみたいに綺麗で美しいものじゃないんだよ。もっと汚くて醜いの。

 もしもアキちゃんが花で私が蝶だったら、何も悩まず傍にいられたのに。煩わしい想いなんて一つもなく、ずっと止まっていられたのに。
 綺麗な翅一つさえない私は誰よりも美しいアキちゃんの傍に子どもみたいに立つことしかできなかった。


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