YU-GI-OH
つれづれ

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・4期初期あたりの十代イメージ


「ねえねえ、何やってるの?」
 ふと聞こえてきた女の声に瞼を持ち上げた。青い空と白い雲、茶色い土壁のその上からしゃがみこんでこっちを覗くなまえの姿が見える。おいお前その位置だとパンツ普通に見えてるぞと思ったけど、思っているだけで口に出すのはやめた。
「釣り。見てわかるだろ?」
「うん、言ってみただけ」
 あっさり頷いたなまえはしゃがんだまま置いてある釣竿を指差す。明日香がいたら行儀が悪いと確実に怒られる状態だ。
「何か釣れた?」
「あぁ、まあな」
 たった今だけど。
「見せて見せて!」
 起き上がって傍のバケツを指差すと嬉しそうに落ちてくる。つーかまたパンツ見えてるぞ。こう何度も見せられると色気も何もねーけど。欠伸をかみ殺して全く動く気配を見せない釣竿を軽く振る。
「何も入ってないよ」
「よく見てみろよ」
「えー?」
 じっとバケツの水面を睨みつけるなまえ。賭けてもいいけど水面にはきっとその顰め面が映ってるはずだ。
指を突っ込んだりバケツを回したりと無駄なことをしばらくやっていたなまえは飽きたのかバケツをほっぽり出して俺の方にやってくる。
「釣れそう?」
「さっぱりだな」
 フーンと呟いて体育座り。前はこいつといると会話が途切れなかった気がするけど、今は口を開きもせずに俺もなまえも海面を見つめている。
暇つぶしの釣りだったけどこうなると釣りさえ暇だ。なまえが来たなら良い暇つぶしになるかと思ったのに、こう黙られると結局は同じだ。部屋にでも呼ぶかと思えば「ねえ」とようやくなまえの声が聞こえる。
「十代ってナーバスになったね」
 ようやく口を開いたかと思えば。その手の話はもう耳タコだ。あれやこれやと言っても無駄だったことでついになまえに順番が回ってきたんだろう。溜息を吐きたくなる。
「お前も俺に説教か?」
「へ?ううん、べつに?でももうちょっと人追い返すのやめたら?」
 文句でも言いたいような気がしたが、ケロっとしすぎた顔相手には怒る気が失せる。
「べつに追い返してるわけじゃねえよ」
「そ?みんなはそんな風に感じてるみたいだけど」
「今もお前と話してるだろ」
「そうだけど。…ん?そうだね?」
 言いながら首を傾げているなまえは周りからの印象と事情が違うことに悩んでいるだろう。カンが鈍いというか頭の回転が遅いというか。まあだからこそ話しはしやすいんだけど。
「まあそれはともかくさ、もっとフレンドリーな雰囲気振りまいた方がきっと得するよ」
「へえ」
 一体誰から頼まれたか、とにかく俺をもう少しレッド寮から引っ張り出したいらしいなまえは口数を増やしてくる。最初黙ってたかと思えば、こいつこれをどう言い出すか考えてたな。なんとなくムカついて思い切り興味ない反応を返す。
「えー…あ!ほら、旅の道連れ世と情けって言うじゃない?」
「聞いたことないな」
「十代ちゃんと授業受ければ良かったのに…」
 可哀想な目をされるのが間違いなく可哀想なのはお前の頭の方だ。
「そもそも今は旅なんてしてねーだろ」
「未来というロードを歩く、人は誰しも旅人なんだよ」
 なんだが名言っぽいが、それがなまえの口から出てきたと思うとなんだか気味が悪い。面倒くさくなってきて釣り竿を持ち上げた。
「…あー、わかったわかった」
「ほんと?よし、じゃあ」
「レッド寮戻るぞ」
「うん!レッド寮に戻る!…えっ?」
 釣竿を回収してバケツの水を海に戻してから、大げさに目を瞬かせるなまえの手を引いて立たせる。
「フレンドリーにした方が良いんだろ?俺の部屋に招待するぜ」
「あ…うん、い……う、うん」
 明らかになまえは自分が頼まれたのと全く違う状況に辿り着いたことに気付いたようだが、別に俺としてはなまえと誰かの約束だかなんてどうでもいい。釣れない魚釣りや猫と人魂と話すのも悪くはないけど、たまにはこういうのもいいだろう。
 わざわざ気を張るのも面倒くさいくらい間の抜けたオベリスクブルーの制服は、寮に着いてから軌道修正でもするつもりか繋いだままの手にも気付かず顰め面で必死に何か考えている。
「…ま、お前一人なら旅路にいてもいいかもな、白地に青ドット」
「………ん?何か言った?」
「いや、べつに」


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