捧/頂

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「普通、こういうのは彼氏にさせないんじゃないかなぁ?」

 言いながら、さらさらとした髪を櫛梳く手を休めてなまえの顔を身を乗り出して覗き込んでみる。

「……勘右衛門は嫌なの?」
「ううん、まさか」

 ほんの少し尖った唇にはついさっき俺が載せた赤い紅が艶めいている。

 “お洒落したいの。勘右衛門やって。”なんて緊張した無表情でなまえが俺の部屋にやってきたのはつい一刻ほど前だ。

「もちろん嫌なんかじゃないけどさ、こういうのはやっぱり俺よりもなまえの方が上手でしょ」
「上手いとか、そんな技術の問題じゃないの」
「じゃあどんな問題?」

 聞き返すとなまえは唇を尖らせたまま俺から視線を外して、何もない方を見ながら小さく口を動かした。

「…い、一般的にどうとかじゃなくて…か、勘右衛門が…どういうのお洒落だって思うのか…わからなくって、…だから……勘右衛門にやって…もらっ…て……」
「やってもらって?」
「…て………」

 促すように聞き返したけれど、なまえは口の中で言葉を転がすばかり。その先を言えない唇がもどかしくってかわいい。

「…そう、なまえは俺を喜ばせたかったんだね」
「そっ……!」

 含み笑いをしながら言うとなまえが弾かれたように何かを言いかけ、それを詰まらせてから頭をぐっと下げた。

「…う、だよ…」

 …うわあ、きゅんときた。

 食べ頃を伝えるみたいに真っ赤になったうなじに優しくそおっと歯を立てる。
途端、驚いたように大きく跳ねる背筋が愛おしい。

「…かわいー……」

 うっすら付いた歯列の跡を舌先でなぞると、なまえはもどかしそうに震える息を唇の隙間から吐き出した。

「か、んえもん…!待って、まだ…!」

 嫌々をするように動く頭を優しく包んで、ちゅ、とつむじに口付ける。

「大丈夫。こうやっておめかししなくったって、なまえはいつでも可愛いよ」
「な……」

 みるみる赤くなる頬を柔く唇で食んで、きっちりと正座している足の間に手を挟んで持ち上げて膝を立たせた。
抗議の言葉は口移しで飲み込んで、裾から忍ばせた手で柔らかい太腿を掴む。そのまま根元に向かって指を動かすと、なまえが慌てたように俺の手首を掴んだ。

「…っん、ちょ、っと…!」
「俺を喜ばせてくれるんでしょ?」

 今更なまえの抗議なんて聞く耳はないから、白い肩に噛み付いて軽く吸うと、なまえは頷く変わりに体を震わせた。


愛化粧
何よりきみを美しく魅せるのは愛ですよ。


10.06.11


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