チクタクチクタクと、小さく音を刻み続ける壁掛け時計にちらりと目をやり、視線を外しては、また目をやり。先ほどから数分単位でこれを繰り返している。

右手に握った携帯の液晶に映し出されているのは、深夜2時頃に届いたメール。送り主は彼。内容は「今日帰るかも」とただそれだけの、簡素で、温度のないもの。

ただいま23時45分18秒。
いつ彼が帰ってきてもいいように、バイトを休んで朝ご飯も昼ご飯も晩ご飯も、それなりに手の込んだものを作って最低一時間は彼を待った。じっとしているのが辛くて、無音の空間が悲しくて、彼を待ちながらもひたすら箒と雑巾を動かす手を止めなかった。いつインターホンが鳴ってもいいように、掃除機は使わずに。お陰で少し広めのマンションの一室の隅々まで綺麗にすることができてしまった。

時計が23時55分を指した。
彼は帰ってくるだろうか。メール画面を閉じて、次はリダイアル画面を開く。一番下に表示された名前。いつも電話しようと名前だけは表示させるのだけれど、肝心の発信ボタンが押せなかった。
何度か彼がかけ直してくるのを期待してワンギリしたこともあったが、彼の大好きな音楽が私の携帯から流れることは一度もなかった。
もう今では、ほとんど期待などしていないけれど。



でもどこかでまだ待ち望んでいるんだ、彼が昔の様に優しい声で私のことを呼んでくれることを。



ついに0時が過ぎて、そしてまた、今日が昨日になって、彼がいない明日が始まった。

何度も繰り返してきたことだけれど、やっぱり少し胸が痛くて、ちょっとだけ涙が出た。


数分後、震える携帯。


「ごめんちょっと忙しかった。今日は帰れるかも」


もう期待なんてさせないでほしいなんて建前で、本音はやっぱり貴方をいつまでも待ちたいの。だからもうこの胸のときめきも、数時間後に襲ってくる虚無感もすべて仕方ないものだと諦めかけてる。


でもね、


あなたの言う今日は一体いつ来るの?




(未だ来ぬ今日に焦がれて何十回と昨日を過ごすの)








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