「千歳どーん」
「うおー」


目の前に見えた大男の背中にタックル。その弾みに抱きついてやった。30cm以上ある身長差のせいで私の目の前にはやつの大きな背中が広がっていて、その広さと暖かさに感じた安心感に思わず目を閉じる。自然と腕に力がこもって、自分の額をこするようにその背に寄せた。


「名前ー?」
「千歳ー」
「どげんしたと?」
「んー」


何も話したくなくて、でも離れたくなくて、生返事をしてもう一度ぎゅっと力を強くすると、頭上から苦笑いが降ってきた。ちくしょう何で君はそんなに優しいんだよ。

なんだか胸が苦しくなって、これ以上ないくらいの力で抱き締めてやった。本当に締めるという言葉がぴったりなくらいに強く、強く。


「いたたた、痛いけん離さんね」
「んーやだー」


駄々をこねればため息ひとつ。あーあ、呆れられちゃったかな。聞き分けの悪いのはいつものことだけど、それじゃあ余計に千歳がいつ私に愛想を尽かしてもおかしくないんだ。

この温もりが無くなったら、そう考えたらじわりと涙が滲んだ。


「よっ、と」
「えっ」
「ほんこつ手のかかる子やね名前は」
「…ごめんなさい」
「でもそこがまたむぞらしか」


結構な力を込めていたはずの両腕はいとも簡単に外されて、私の目の前にあった背中が無くなったかと思うと次の瞬間、今度は逆に私が真正面から抱き締められる形になってしまっていた。私とは正反対の、筋肉質で日に焼けた腕が抱えるように私の背を抱いて、その優しさにまたじわり、胸が疼いた。


それから、むぞらしか、ともう一度小さく呟いた彼に、少し恥ずかしくなって私も千歳の背中に手を回して、ぎゅ、と真っ白なシャツをきつく掴んだ。離れないようにぎゅっと。


「ちとせ、」
「ん?」
「すき」
「めずらしかね…ほんまにどげんしたと?」
「こわい」


聞こえなければいいな、と小さく呟いた言葉も、千歳はちゃんと拾っていてくれて、さっきより少しだけ腕の力を強くしながら、赤子をあやすように背中を軽く撫でてくれた。少し汗を吸ったカッターシャツから千歳の匂いがして安心して、でも少し胸が痛くて、ほらまた、視界が滲む。


「大丈夫、俺がおるよ」
「…ごめんね」
「誰だって不安になるこつもあんね」
「…ん」
「名前が辛くなったらまた俺ん胸ば飛び込んでくればよか」
「う、ん」
「俺はいつだって受け止めたるけんね」


そう言って千歳は腰を折って、私と同じ高さまで目線を合わせてにっこりと笑った。

本当に優しすぎる。彼はいつだって私が不安に思ってることをぴたりと当ててしまって、私がしてほしいことを容易く行動に移してしまう。そのくせ自分のことになるとめっきり疎くて、私が怒るとさらりと「名前が見てくれとるから大丈夫ばい」だなんて。何の力もない私の居場所を彼は自分の隣に作ってくれた。そして私を好きでいてくれる。

こんなに優しい彼氏、千歳以外に見つかんないよ。


「好きばい、名前」
「千歳ー、私もだいすき」
「相思相愛やね〜」
「そだね〜」


おでこをコツンと合わせてえへへ、と笑い合って。
絡まった視線を引き寄せて少し顔を傾けたら、私の髪をくしゃりと撫でた千歳の大きな掌に頭を支えられて、小さなキスを落とされた。


本当に、何でもわかってるなぁ、なんて改めて思ったら、その掌が、大きな身体が、甘い声が、頬を擽る髪の毛がとても愛しくて、今が本当に幸せで。我慢していた涙が一筋、頬を伝って彼に落ちた。




(君がいてくれるから大丈夫)




コダルド:臆病者
方言わからんね。

(110330)







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