「じゃじゃーん!」
「おー名前、なんやそれ」
「何だと思う?」
「CD?」


久々に部活がない日曜日に彼女の家を訪ねれば、そこには本当に嬉しそうに笑う彼女がいた。その手には真っ白なディスク。正直に答えると、チッチッと指を振られる。いつものようにベッドに腰かけた俺を押し倒す勢いで話始める。
そんな可愛い顔近づけられて俺が大丈夫やと思っとるんやろか、信用されとるってのもなかなか大変やなぁ思いながら、頭打つから勘弁してや、言うて俺の隣に落ち着かせる。


「じゃあDVDか?」
「当たり!クラスの子が貸してくれたの!」
「よかったなぁー、何借りたんや?」
「あのねー、ARASHIのコンサートのやつ借りたの!」
「あぁ、今めっちゃ人気やんなぁ」
「うん!というわけで今日はこれ見よう蔵ノ介!」


幸せそうな顔で俺を見る名前にええよ、と言ってやれば、ありがとうと俺の腕に抱きついてから、DVDをセットし始める。
それにしても、名前がARASHI好きやったなんて初めて聞いたけど、いつから好きやったんやろ?


「ひゃああああ皆かっこいい!」
「…」
「きゃああああ今のニノとリーダー!可愛すぎるよ!」
「…」
「さくラップ!!!すごいすごいやばい!」
「…」
「うわあああじゅんくん本当優しいなぁーファン思い…惚れるわ…」
「…」
「あーばちゃん、じゅんくんに怒られてるし!可愛い!」


隣でキャッキャと騒ぐ彼女は本当に楽しそうで微笑ましい反面、やはり少し気が悪い。いくらアイドルとはいえ、自分の好きな人が他の男にかっこいいやら可愛いやらの感情を向けていると嫉妬してしまうのは仕方ないことやと思う。
少しイライラして、隣にあった彼女の手を強く握った。


「蔵ノ介?どしたの?」
「…名前はこん中で誰が一番好きなん?」
「んー…基本的に皆好きなんだよね、皆タイプが全然違うから比べられないし、皆いい子だしかっこいいし可愛いし歌もダンスもトークも上手いし!それに5人ともすごく仲良くて、ファンのことをちゃんと考えてくれてて、ほんとひとつのグループとして大好き」
「…ふーん、」
「んーまぁでも一番はニノかなぁ」


そう言って頬を緩める彼女の目線の先に、ちょうどそいつのアップ。ふーん、こんな優男が好きなんやなぁ、と、やはり嫉妬の思いは大きくなるばかり。

そっちばっか見んと、俺のことも見て、なんて本音はどうしても言えなくて、未だに顔が緩む彼女を自分の足の間に座らせて、俺より幾分か小さい彼女の頭に顎を載せて、腰に手を回して抱き締める。
くすぐったそうに身を捩るところ、小さく蔵ノ介、と名前を呼ぶところ。そういうところがまた可愛い。

そう思ってこちらを向いた彼女の頬に軽く口付けると、それを合図としたかのようにブラウン管越しの会場が静まり返る。それと同時に彼女の視線もそちらへ向かってしまった。


「あっ、これこれ、今から始まるやつ!このニノのソロが大好きなの!」


大好き、という単語にまた反応。だから俺以外にあんまり使わんといて、って。
腰に回す手に込めた力が自然と強まった。


透明なピアノを引きながら、マイクに口づけながら歌う彼は、さすがアイドルというか。流れる汗も少しずれた眼鏡も彼を引き立てる要素でしかなくて、同性から見てもこいつはかっこいい、と思った。


『これからはちょっとくらいの我が儘。言ってもいいよ。でも私にだけよ。』


「あー、いいなぁ、」


無意識に、だろうか。漏れた彼女の言葉に、少し手の力が緩んだ。集中して歌詞とメロディーを聞き取る。

あぁ、これ、『名字を重ねた日』ってフレーズ、めっちゃええなぁ。とか、さっきの『好きだよ』は反則やろ、とか。

最後、会場が一つになって曲を作ってるって感じに感動してしまった。「これ自分で作詞とかすごすぎる」そう呟いた彼女に思わず首を縦に振っていた。


『テレはじめるきみに。ありがとう。ありがとう。』


そう曲が終わって、吐いた息が彼女のそれと重なった。

こちらを見上げる彼女が、幸せそうに笑っているのを見ても、さっきのように妬みや苛立ちは出てこない。

なぜだろう、と考えなくてもわかる。多分あの曲を聞いて、感動して、彼女を想って、自分まで幸せな気分になったからだろう、って。


うんまぁ、今回くらいはブラウン管の向こうの彼にも感謝せなあかんなぁ、なんて苦笑い。


「蔵ノ介?」
「なんや?」
「いやなんか、嬉しそう」
「そうか?まぁ嬉しいけどな」
「よかった、私ずっときゃーきゃー煩かったし、ちょっと機嫌悪そうだったから、怒っちゃったかと思ってた」
「んー、間違いじゃないけど、名前が好きすぎてそんなんどうでも良くなったわ」
「なっ…!そんな恥ずかしいことをよく、言えますね白石くん…」


そう言ってこっちを向いていた顔はまた逸らされる。それでも視界に捉えた彼女の小さい耳が真っ赤に染まってたのがわかった。


そこでふと、さっきの曲の最後のフレーズが蘇る。


『テレはじめるきみに、』

ありがとう、ありがとう。


真っ赤な耳に唇を寄せて、そう口ずさめば、次の瞬間腰を抜かした彼女に強く背中を叩かれてしまった。






「なっんでわかったの!?」
「なにが?」
「…気づいてるんじゃないなら、いい」
「?なんやそれ」
「(この曲蔵ノ介に歌ってもらいたいって思ってたとか!言えない!はっず!)」
「好きやで」
「うわあああああありがとうございますうううう私もだよちくしょう!」
「(かわえーなー)」






名前出してええんか迷ったけどやってしまいました。苦情は受け付けます…はい。
所々出てくる歌詞は「虫工」より引用。

嫉妬した白石が書きたかった。


(110324)







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