「多分、いや絶対やな」

誰にも負けたりなんかせんと思う。


そう雑誌に夢中になっている目の前の彼女に向かって投げかければ、一体なんだ、とでも言うようにこちらを怪訝な顔で見つめられ、ページを繰る音がピタリと止んだ。


「何が?テニス?」
「ちゃいますわ、アホちゃいますん」
「だから何度言えばわかるのかな年上にアホアホ言うなやドアホ」
「アホ言うた方がアホやねんで」
「じゃあ光のが先でしょうが」


まったくもう、め!なんて言いながら頭にペシンとチョップが入る。め!って、アンタ何歳やねん。てか可愛すぎんねん、なんてことは口には出さない。出せない。


「てか突然話振られて内容把握しろって方が無茶よね」
「何言っとんねん、俺ら何年の付き合いや思っとるんすか」
「えー、10年?11年?」
「11年と7ヶ月っすわ」
「ややこっしゃ!」


光そういうとこ昔っから変わんないね!まじめんどくさい!
ほんまにめんどそうな顔をしながらも、雑誌を閉じてこちらを向いて、きちんと話を聞いてくれる。なんだかんだ言って、ほんまは優しい。わかりにくいけど、って俺も人のことは言えないが。


名前が好きだと気づいたのはいつだったかなんて忘れてしまった。
いや、元々はっきりした時期なんてなんかったようにも思う。なんたって彼女とは小さい頃から一緒にいて、俺はずっと、追いつけるはずもない彼女の背中を、決して離れないよう、追うって生きてきたんだから。


ちらり、と、俺のベッドに腰かけてお気に入りの熊のぬいぐるみを抱いている名前を見る。


彼女の長くて指通りの良い髪が好きだ。特に放課後マネージャーの仕事のために後ろで一つに束ねた髪を、着替え終わった部室でほどいた瞬間の、さらさらと流れる髪が好きだ。
いつも帰り道に、楽しそうに話す彼女の頭を撫でるフリをして、わりと自然に髪をといてやる。その時にくすぐったそうに身を捩って、にやけた頬にできるえくぼも好きだ。

あと、俺から手を繋いだ時や、キスしたった時に恥ずかしそうに桃色に染まる頬と、小さな耳。可愛らしくて食べたくなるくらいに、好き。

それから、彼女の細くて白い喉から奏でられる優しい声も好き。その声を聞いたら安心するし、なんか胸が温かくなる。
ただ、彼女がその声で他の男の名前を呼ぶのだけは、気にくわん。その時はとりあえず、相手の男にガンをとばす。テニス部以外は、大体これで追っ払える。
これで諦めるなら最初から人のもんに手出すなや、といつも内心毒を吐くのは秘密や。


「あと…そうやなぁ、何があるやろ」
「だから何がよ」
「自分その喧嘩腰なんとかならんのですか」
「誰のせいでこんな性格になったと思ってるのかな光くん」
「俺っすか?責任転嫁とか見苦しいんで止めてください」



あぁそういえば、中学に入って彼女の後を追うようにテニス部に入った時だ。
今までのように、彼女を呼び捨てて、タメ口で話してた俺が強烈なデコピン受けたんは。
「いくら幼馴染でも学校では先輩って呼びなさい!あと敬語を使え!」
と言われた時は少なからずショックを受けた。なんでそんな他人行儀にせなあかんねん、そう言って思いっきりロッカー殴った覚えがある。

まぁ今思えばそれがこの人の照れ隠しやったんやけど。
それに付き合いだしてからは「二人でいるときは名前で呼んで」とか可愛いことぬかしやがるし。
そんでわざと先輩、って呼んだればちょっと涙目になりながら抱きついてくるし。あん時はほんまに自分よく耐えたと思うわ。


…ほんま、考えてみれば俺はこの幼馴染兼先輩兼彼女に振り回されてばっかやわ。


「なぁ?」
「あーはいはいそうですね」
「可愛くないなぁ」
「あーどうもすいませんっした」


受け流されている状況に少し腹がたったので、ベッドに寝転ぶ彼女の頬をむぎゅ、と掴んで引っ張ってやる。
嫌そうにもがきながらも、本気で拒もうとしない彼女の表情に、雰囲気に、やっぱり胸が温かくなる。


あー、わかった、やっぱ全部やわ。

俺名前の全部が好きなんやわ。



名前について知ってることの量も、名前を想うこの気持ちも、全部全部、


「やっぱ、絶対誰にも負けへんわ」
「ねぇ光さん、そろそろどういうことか教えてくださいな」
「ん?だから、」







「名前がめっちゃ好きやっちゅー話ですわ」
「…はっ?」
(あ、めっちゃ顔赤なった)







財前のデレ?と思ったら表に出しとるの全部ツンやったわ難しいわ。

『マイディア』提出

(110322)









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