表すなら、ジメーって感じ。
いや、ジトー?
あっちゃうわジメジメやわ。

教室入って席に着いた途端、真横から伝わってきたオーラに思わずカレンダーを二度見した。
今3月やんな?梅雨時期とちゃうよな?


「おはよー謙也」
「あっ白石やんおはよーさん」
「どうしたんここで突っ立って、」

そう不思議な顔をしてこちらを見ていた白石も、どうやらこの尋常じゃない湿気に気づいたらしい。顔が引きつり始めた。

二人で目の前の彼女に気づかれんように、小声で話す。

「ちょ、名前ちゃんどないしたん」
「わからんねん、教室入ったらここだけ6月やった」
「なんでこんなジメジメしとるんやろ、あの日やろか」
「?あの日ってなんや?」
「そんなんもちろん生「てぇぇぇええい!!!!」グフォオオ」


ええええええいきなり白石消えたああああ!!
て思たらちゃうかった。
名前の右足が綺麗に白石の腹に入ってぶっ飛んだだけやったなんやいつものことか。


「ったく、こっちが大変なときにテメェはエクスタエクスタ絶頂ばっか迎えやがってお盛んなことで」
「ちょ、お前今日いつにも増して口悪すぎやろ!」
「うるさいなぁ謙也今私の機嫌は最高に悪いんですまじ死にたい」
「と、とりあえず死ぬな!ほら!チョコボールやるから!な!」
「そやそや、一旦落ち着き?ほら缶詰やるから」
「…いちごが良かった。てか白石チクショーこれ猫缶じゃねーか死にさらせ」
「ゴフゥ」


(とりあえず落ち着きましょう)


イライラ最高潮の名前をどうにか菓子で落ち着かせて今に至る。
モグモグとチョコボールを貪り続ける名前と、鳩尾を押さえながらも微笑み続ける白石。
アカン、精神的な疲労にHPがどんどんすり減っていく。

「んで、お前はなんでそんな荒れとるん?」
「ひぇーみゃあひらいしんひゅっへるひょひょひゃひゃひゃっへるんひゃへひょ」
「とりあえずチョコボール置きいやそんで日本語喋れ」
「『まー白石が言ってることが当たってるんだけど(悔しくも)』やろ?」
「うっわなんか心の声まで聞こえてるし白石キッモ」
「食べるんはやっ!てか白石さすがにそれキモいわ」
「お前らそんなこ「まぁ女子日でイライラしてるのとあと、なんか鬱なんだよね」
「なんか鬱って、なんや」
「なんか訳もなく鬱。まじダルいもうやだ埋まりたい、って感じ」
「あーわかるで。なんか無性に泣きたくなって潜りたくなるよな」
「そうそう」
「(えっ俺だけ?わからんの俺だけ?)」
「そういうときって、めっちゃ癒されたくならん?」
「そうなの!!!癒しが欲しいの!!」

ダンッと机を叩いて立ち上がる彼女。今までのジメジメ感は何処へ行ったのやら、彼女の目はキラキラと輝いている。

なんか、まためんどくなりそうやなぁ、って思ってたら、


「その顔からして、癒しが何かはわかっとるみたいやな」
「うん、今の私に必要なのは一つしかない」
「…それって何や?」


「私を蔑んでくれるイケメンのドS男子」


はい名字さんの今日一番のボケ入りましたー!
とりあえずお望み通り「なんでやねん!」と突っ込むと「何でなんでやねんやねん」と顔面に突っ込まれた。分かりにくいわ。


「じゃあ俺が罵ったるわ」
「いや私今『イケメン』の『ドS』って言ったよね?」
「せやから、俺でよくない?」
「まぁ確かに白石顔はいいけど変態だし隠れドマゾだから御免被るわ」
「…じゃあ謙也ならええんか?」
「いや謙也は全てに於いて平均より少し上なレベルだから却下」
「却下て!俺も傷つくんやで!なぁ!」
「ごめんごめんまじアイムソーリー」


こいつ謝る気全くないやないかふざけとるわ!
やり場のない怒りをどう発散したらええかわからんかったからそこにあった白石の薬草図鑑に一発かましたった。ちょっと紛れた気する。


それでや、結局本題は、


「謙也もあかん、俺でさえもあかんとなると、もうこの学校誰も当てはまる奴おらんで?」
「ナチュラルにナルシんなや自分」
「え、ねぇねぇ、あの子はあの子」


そう言って俺ら二人の袖口をちょいちょい引っ張る彼女。こういうところは可愛いんやけどなぁ、と思いながらその視線の先を追うと、追うと、と、えええええ


「どいつや、ってえええええ」
「あの子、テニス部の子でしょ?ほら、よく謙也とかユウ君とか罵られてるじゃん!」


いやいやいやいやちょっと語弊があるけれどもお前よりによって、あいつなんか、なぁ。

隣の白石が「そこはノーマークやった…」とか言いよる。
確かに、あいつと名前は直接的な関わりなかったから大丈夫やと思っとったのに、まさか普通に知っとったやなんて…

あかん、確かにあいつは名前の「癒し」の定義に当てはまりすぎとる。だからこそ、これは食い止めなあか「えっと名前なんだったっけな………あっそーだ!ぜんざいくーん!!!!」


「「財前んんんんん!」」


俺と白石の叫びが木霊した。






(何千里?えっ10メートルくらいじゃね?)



(110321)

地味に続く







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