喉を押し上げてくる欠伸を噛みしめながら、今日も眠いなぁなんて登校してきたら、昇降口の奥の方、靴箱のあたりで大きな人だかり。
あれ、あそこうちのクラスの靴箱じゃね?
そんなまさかまさか、なんて思いながらも3-2の靴箱に足を進めればどんどん増えていく女、女、女。
上靴の色からして1年〜3年まで、学年を問わず女が集っていた。なんだこれは。
「あ」
「、あっ」
人混みを掻き分けた先にいたのは、まぁ予想はしていたけれど我がクラスの、というか我が四天宝寺の人気者白石で。回りの女共を困りながら対処していた彼は、私を見つけた途端顔を変えて近づいてきた。といっても元から何メートルも離れちゃいなかったけれど。
「白石おはよう」
「おはよう名字、あんな、」
「なにこの集団?まぁ多分あんたのファンなんだろうけど」
「ああなんか、うん、そうみたいで、その、あ、堪忍な、そういうの受け取らんことにしとるねん」
彼の後ろから顔を出した可愛らしいふわふわヘアの(恐らく)後輩の持っていた綺麗にラッピングされた箱を至極丁寧に押し返す白石。そのわりに、彼の持ってる手提げ袋や靴箱にはたくさんの綺麗な贈り物と封筒がぎっちり詰め込んであった。なんだ、今日はバレンタインデーか?あ?
「何、いつからバレンタインは年に二度になったわけ?」
「いや、バレンタインやのうて、その、」
「その、何よ」
白石は突然顔を少し染めてもぞもぞし出す。何でこいつは私の前ではこんなにヘタレになるんだろう?他の女に対してはあんなにも、かっこいいのに、
「今日な、俺の誕生日、やねん」
ああなるほど、だからこんな状態になってるわけね、へー。
白石の誕生日を知らなかったっていう絶望感と、白石を取り巻く女への醜い嫉妬と、異常なほどモテる白石への、苛立ちが、じわりじわりと私の心を侵食していって、ほんと、気持ち悪い。気持ち悪いというか、悲しいんだろうな、なんていう自己分析はほっといて、小さくおめでと、と返してその場から離れようとまた女の群れの中に足を踏み込んだ。
これ以上ここにいたら泣いてしまう気がした。
「待って、名字」
ガシリ、掴まれる手首。離してよ、そう言って強めに彼を睨んでみると、なぜかいつもみたいなへらへらした顔でもなくただのイケメンでもなく、眉を八の字にして少し悲しそうに私を見る白石がいた。
「なんで、」
なんでそんな顔するの?
胸がズキリ、また痛くなる。掴まれた右腕に少し力を入れるけれど、白石が離してくれる気配は、ない。
「俺、名字に祝ってもらいたいねん」
「…、私なんかじゃなくても、そこらの女共が祝ってくれてるじゃん」
「イヤやねん、名字やないと」
一気にシーンと静まり返る、白石のファンたち。誰もが絶句していて、中には目に涙を浮かばしてる奴さえいた。
面倒事に巻き込まれるのなんか、絶対に嫌なんだけど、でも、ここで白石を突き放す方が、もっともっと嫌だった。
口角を上げて、上目遣いに白石を睨む。おいなぜそこで頬を染める。
「…名字、かわいいけど、かっこいい…」
「黙れ意味がわからん」
「…はい」
「白石、」
「?」
「誕生日おめでとう。プレゼントとして、白石をもらってあげるよ」
なんか日本語変だけどまぁ、言いたいことは伝わるだろう、そう思って言い放つと、案の定さっき以上に顔を染めて終いには涙まで流す始末。
「ありがとう、俺、めっちゃ嬉しい、」
「そう、よかった。生まれてきてくれてありがと、蔵ノ介」
「……!!!!アカン、名前かっこよすぎるやろ…」
「…普通逆じゃね?」
なんて言いながらも、顔をくしゃくしゃにして笑う蔵ノ介が、めちゃくちゃ可愛いなんて思ってる私がいるんだから、おあいこだよね。
not milk
Happy Birthday Kuranosuke.S!!
(110417)
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