「つばささーん」

今日は、12月27日です。そう、12月27日なのです。私の、誕生日なのです。

数時間前に完成した絵を横目に見ながら、目の前のベッドに寝転がる赤い頭に声をかける。反応なし。まるで私の存在なんて無いかの様である。ちくしょうどうなってんだ。少し頬を膨らます。

1週間ほど前からこの日は一緒に過ごそう、と言われていたから、態度には出さないものの本当に本当に楽しみにしてたんだけど。当の本人は手に持っている雑誌から視線を外さないまま、ぴくりとさえ動かない。時折ページをめくる音が響くくらいで、部屋の中は気味が悪いくらいにシーン、としていた。

その静寂を破るようにもう一度、喉を鳴らす。

「つばささーん」
「んー」
「ねぇ聞いてるー?」
「んー」

ああこの返事は全く聞いてないな。相変わらず自分の道をがっつり往く人だねこの人は・・・。

期待はずれの状況に、少し、ほんの少しだけがっくりしながら。何か飲み物でも淹れようかな、と立ち上がってキッチンへ向かう。色違いのマグカップを二つ並べて、赤い方にはココアを、青い方にはコーヒーを。牛乳はレンジで温めるとして、お湯を沸かさなきゃ、そう思って鍋を手に取った時に、ブルル、と着信音。片手で鍋に水を入れながら、慣れた手つきで着信ボタンをぽちりと押す。

「もしもしー」
「あぁミサキ?僕だけど」
「…つばささん、だよね」
「そうだね」

相手の名前を確かめずに電話に出たけれど、この声は隣の部屋にいる私の大好きな彼氏様で間違いないはずだ。そう、振り向けばすぐそこにいる、翼さんに、間違いない。

「ミサキ、こっち向かないでね。向いたら雑誌放り投げるから」
「(理不尽!)はいわかりましたよっと」
「というわけで、ミサキ、誕生日おめでとう」
「…ありがとうございます?」
「なんで電話なのかは、まだ聞くなよ」

小さなお鍋にカップ一杯分のお水を入れて火にかけてから、牛乳をレンジに入れて、1分温め。ピッという大きな機械音が背中の後ろの方で彼の受話器越しに小さく聞こえた。

「19回目のミサキの誕生日を、僕なりにどう祝えるか考えてみたんだけど。生憎シーズンオフでゴールをプレゼント、なんて粋なこともできないし、どっか貸し切ったりっていうのは僕の柄じゃないしで、大きなサプライズは用意できなかったんだよね」

つらつらと流れる彼の言葉に、思わず頬が赤くなる。実行に移されなかったとしても、それを想像するだけでなんだか幸せな気持ちになってしまうのは、仕方ないと思うんだ。

「それで、」

1分を知らせる合図とともに、ひゅっ、と息を吸う音が聞こえた。

「精神的に、責めてみようと思ったんだよね」
「何そのどえす発言。それでさっきまでの焦らしプレイですか翼さんやい」
「…まぁそういうことにしとけばいいんじゃない」
「?どゆこと」

はぁ、と息をつく音が聞こえて、布の擦れる音。翼さん起きあがったのかな?振り返りたい衝動にかられるけれど、さすがに雑誌の角は痛いので。どうにか抑えつけて、真っ白な牛乳にココアを投入する。くるくると混ぜて、味を確かめて、少しお砂糖を入れて甘めにしたら、はいできあがり。

「もういいよ。…ミサキ、一回しか言わないからよく聞いてよ」

さぁ次はコーヒーだ、と沸騰したそれを注ぎ込もうと鍋を外した時。より一層耳元で大きく彼の声が聞こえる。さっきよりもリアルに吐息が聞こえたかと思うと、


「結婚しようか、ミサキ」


とんだ爆弾発言だ。驚きで鍋のふたをがしゃんと大きく音を立てて落してしまうくらいの。

「どっどどどどどどどういうことですか」
「まぁそういうこと」

まぁそういうこと、ってそんなさらりと言われても困るんですけど!
まだ火を止めていなかったお湯が、ぶすぶすと音を立てているけれど、そんなの気にならないくらいに、心臓がばくばくばくばく、私の頭どころか、全身を占めていく。
だめだ、なんか色々爆発しそう。とりあえず、

「あの、振り向いてもいいですか、」

言いながら、すでに頭は後ろに向きかけてるんだけど、そう思っていたら。ぎゅ、とお腹に腕が回され、首元にくすぐったい重み。

「だめ」
「なんでですか」

右肩の方に目線を向けると、髪の毛の間からちろりと覗く赤が目に入った。彼の赤みがかかった髪よりももっと鮮やかな、それ。…もしかして。

「つばささん、照れてる?」
「うるさい」
「もしかしなくても、照れてる?」
「だまれ」

思った通りだ!ときゃっきゃ、と擬態語がつきそうな表情で、嬉々として彼に問いかける。ね、と顔を覗き込んだ時に触れた頬が、やっぱり熱を帯びている。

「つばささん、可愛いね」
「それ以上言うと犯すよ」
「駄目だよ20歳まで待つって言ってくれたじゃん」
「もう黙れ」

むぐ、とくっついたそれに息が止まる。いつもキスの時くらい呼吸は鼻でしろって言われるけれど、なんだか難しいしそれに、この苦しさも案外好きだったり、なんて。変態チックな考えをしてみる。

「ぷはっ」
「だから息は鼻でしろって言ってるだろ。呼吸困難で死んでも知らないよ」
「いいよ、翼さんのキスで死ねるなら」
「…馬鹿じゃないの」
「それに今も、なんか息ができない。翼さんのせいで、幸せで胸がいっぱいで、もう死んでもいい」
「…馬鹿ミサキ。僕が死ぬまで死なせなんかしないよ」

こつり、と額と額をちゅーさせて、じっと見つめられたら。私の顔、今りんごみたいに真っ赤になってるんじゃないかなぁ、恥ずかしい。でも、幸せだなぁ。へらり、と笑う。

「まぁ、結婚って言っても、ミサキが卒業するまでは待つつもりだけどね」

そう言いながら左手をぎゅ、と握られ、薬指にひやりとした感覚。シンプルなそれは石も何もついていないけれど、私の眼には十分眩しくて、目を細めた。

「仕方ないから幸せにしてあげるよ」
「…ありがと、翼さん。嬉しくて泣きそう」
「もう泣いてるけど?」

頬をなぞるその指があまりに優しすぎて、彼の指が触れていない頬に、一筋涙が伝った。

「ねぇ翼さん、もうひとつだけプレゼント、頂戴」
「ん、なに?」
「もう一回、言って?」
「…一回しか言わない、って言ったよね?」
「お願い、直接聞きたい」

ね?と袖を握ってお願いすると、仕方ないなぁとでも言うように、ため息一つ。ああもうその息ですら愛おしい。

「二回目は3年後、って決めてたんだけど、特別だよ」

そう言って、私の耳元に口を寄せて

「ミサキ、結婚しよう」

甘い甘い囁きが私を溶かした。



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ぎゃあああああああすみません甘いですねすみませんごめんなさい!!
ほんとは焦らしプレイじゃなくて言うタイミング測ってたんだよ!直接言うの恥ずかしいから電話にしたんだよきっと!!
なんかもう自分でも書いてて恥ずかしすぎてうわあああってなったけども!こんなので祝えてるとも思えないけど!!よければ受け取ってくださいミサキさん!!

いつも仲良くしてくださってありがとうございます!!これからもよろしくしてやってくださいな!!






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