11月15日、机に置かれたデジタル時計が、0時0分を示すと共に、新たな日付、私の誕生日を示した。

携帯が震え、友人達のメールを受信する。15分の間に届いたそれは10件を軽く越していた。それら全てを読んで嬉しさを噛みしめながらも、どこかまだ喜びきれていない自分がいるのを、そろそろ認めるべきだろう。


15日になってもう30分が経とうとしていた。しかし、一番祝ってもらいたい相手からのメールも、電話すらも来ない。

なんで、今日に限って何も連絡してこないの。

悲しさが募る胸の中にぽつんと浮かび出たもうひとつの感情。こんな日にまで、この感情を覚えなければいけないなんて。その事実により一層苛立ちは増して、携帯の時計が40分を指す頃にはもう耐えることができなくなっていた。

リダイヤルページ、一番上に位置する名前。日付が変わる前から何度も押そうとした彼の名前。それをゆっくりと押す。


1コール、2コール、3コール、4コール、


一向に切れる気配のないコール音に、少し心配になってきた、ちょうどその時。
ぷつ、と電話が繋がる音。

「もしもし、竜也?生きてる?」
『…ココ、 あぁ、生きてる』
「…何、今外なの?」
『いや、その、』
「外なのって聞いてんの」
『…あぁ』
「…飲み会かなんか?」
『いや、違う』

通話口に吹き付ける風のせいで、雑音が大きく鼓膜を揺らす。飲み会の類でないとすれば、どうしても断りきれないような用事ではない、ということだ。しかし、日付を跨ぐほどの用事。それがどんなものかなんて、想像はしたくなかった。

『ココ、ごめん、』
「なにが」
『その、』
「いい、聞きたくない。…わかってる、竜也が忙しいことくらい、私に口出しなんかできないことくらいわかってる。だってずっと竜也のこと見てきたから」
『ココ、だから、』
「別に竜也の普段は一番じゃなくてもいい、二番でも三番でもいい。でもさ、一瞬でいいから、一番になりたい時もあるんだ」
『ココ…』
「ごめん、このままじゃ変なことばっか言っちゃうから、切るね」

返事を待たずに電話を切る。何か、彼が言う声が聞こえた気がするがそれどころではない。じわり、と涙が滲んだ。

あぁもう、また要らないこと言っちゃった。つくづく自分の性格が嫌になる。

考えれば考えるほど、思考は深く深く沈んでいってどんどんと暗い気持ちになる。だめだ、このままじゃだめだ。

「あーもう、今日はやけ酒してやるんだから、」

こうなったら自分で自分を慰めてやろう。そう決めて、椅子に掛けてあった厚手のパーカーをはおり、財布を片手に家を出る。吹き付ける風に思わず身震い。

そういや、竜也、鼻声だったなぁ。この寒い中外にいて風邪引いてないかな。

ぼーっと考えながら、階段を降りて大通りに出て、コンビニへと続く角を曲がろうとした瞬間、前から来た人とぶつかってしまった。幸いにも、お互い転ぶようなことはなかったけれども。


「うわっ、」
「すみませ…ココ…、」


あぁもう、なんとタイミングの悪い。先程あんなことを言ったばかりなのに、こうして顔を合わせる羽目になるとは。

あぁだめだ、このままここにいたら、また泣いちゃいそう。耐えれる自信がなくて、見合わせていた顔を反らし早口で。

「ごめんなさい急いでるので、」
「待てよ」

すれ違う瞬間捕まれる手首。か細い腕のどこにそんな力があるんだろう。びくともしない手首に思わずため息が出た。

「離して、って言っても離さないつもりでしょ」
「当たり前だろ」

同じようにため息をついた彼の、顔が近づく。

「ごめん」

こつん、額をぶつけてやる。

「何が」
「連絡、遅れて」
「…何してたのか教えてくれたら許したげる」


そういうと分が悪そうに顔を歪める。あーあ、綺麗な顔なのにもったいない。まぁそんな困った顔も好きだけど、


「あー、その…これ」
「…ケーキ?」

手渡されたのは真っ白な紙の箱。わざわざこれを買いに行っていた、とでも言いたいのだろうか。


「渋沢に教わって、作ったんだ」
「え、竜也が?」
「…何か贈るのもいいけど、買ったものじゃなくて、何か自分でココにできることはないか、考えてたんだ。でも何も思いつかなくて。そんな時渋沢が、自分の子供とよく菓子を作ってるって聞いたから、」
「作ってみよう、って思ったの?」
「…ああ。思ったより難しくて、だいぶ時間かかったけど」

照れた様にそう言う彼に自然と顔が緩んだ。
あぁ、さっきまでの嫌な気持ちが嘘みたい。

「ごめん、私一人で勘違いしてた」
「いや、連絡遅くなったのは俺の方だし、直接会うまで言いたくなかったんだ」

サプライズ、にしたかったんだ、って。
どうしよう、嬉しすぎる。

「ありがとう、竜也」
「こっちこそ、その、生まれてきてくれてありがとう」

顔を見合わせて、笑い合って。


「あぁそうだ、チューハイ買いに行く途中なの、行こう?」

そう言って彼の腕を引っ張って足を進めると不意に後ろに引き戻されて、彼の腕の中に収まる。
耳元に暖かい息がかかる。

聞こえた言葉に、多分体温は一度くらい上昇したんじゃないだろうか。

恥ずかしすぎて、でも嬉しすぎて、そのまま彼の胸に顔を埋めた。


(「誕生日プレゼントは俺の一番で、」なんて!!)


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ココさん1日遅れたけどお誕生日おめでとうございますうううううう!!!!!!
即席のネタのくせにすっげー長くなってしまった…(´;ω;`)
しかも水野さんわからなさすぎて(笑)(笑)だれこのこ。
こんな水ココでお祝いできるのかわかりませんが、良ければ受け取ってくださいごめんなさいいいいいいい!!!!
これからも水野とお幸せに!!







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