暑い。とにかく暑い。頭が焼けるんじゃないかってくらい、暑い。
体育館から出た途端、室内の蒸すような熱気とまた違ったそれが全身を覆う。なんというか、じりじりとくる熱さ、暑さ。
さっきまで激しく動き回ってた私にとって、頭上から容赦なく降り注いでくるお天道様の光は(いや、雨よりはありがたいんだけども、)正直辛かった。

「む、り。しぬ」
「あんただけじゃないんだから!ほら、しゃきっと歩け!」

ぬぉ、と前のめりになりながらも、重心を後方に傾けて何とか転倒を避けようとする。今足がくがくなんだよ、と言っても背中を叩いた張本人は何食わぬ顔で前を歩いていた。聞け、人の話を。


本日、晴天なり。前期球技大会、順調なり。
4月の文化部発表会、9月の体育大会の2大行事に挟まれるこの球技大会は、各クラスが7種目の球技で争い、勝ち点を競う行事である。ちなみにその7種目はドッジ・バスケ・サッカー・テニス・バレー・卓球で、出場できる各部の生徒はクラスで2名まで、という規制さえ守れば結構なんでもあり、な行事なのだ(先程のドッジには先生も混じっていた。集中攻撃で涙目になっていて思わず笑ってしまった。)

開会式の生徒会長の挨拶によれば、ここ2年球技大会は毎回雨天だったらしく、今年晴れたことが本当に奇跡なのだそうだ。言われてみれば、去年の球技大会はほとんど記憶にない。雨天となるとできる競技は一気に6種目から3種目に減ってしまう。しかも体育館だけで全学年24クラスを回すのだから、自然と試合数も減ってくる。クラス一同盛り上がる行事が、一気に面白くないものになってしまうのは、確かに嫌だった。その点今年は(本当に)憎いくらいの晴天なので、その心配はないのだけれど、


「とにかく暑い」

パシン、再び平手が飛んできた。そこ、笑うな。後ろに続くクラスの女子を睨むが返ってくるのはやはり笑い声。自分のキャラが最近わかりません、と挙手しても、まぁ仕方ないよねと一言。
どういうこと!


「あ、ねえねえ昨日のWステ見た?」
「あー、またJs出てたねー」
「そうなの!ほんともう横山くんかっこよすぎて!!」

そう言えば、といったように始まった話題に食いつく。昨日の音楽番組に出ていたアイドルグループの話。私はテレビに出ていれば見る、という程度のまあ平凡なファンである。もちろん本気で好きなわけではない。画面の向こうにいる人だから、目の保養として拝んでいるだけなのだ。やっぱりイケメンは見ていて幸せになるってもんさ。

「えー、私あの顔好きじゃない」
「違うの、性格もいいのよ、面白くて」
「んー、どう思う?」
「私も好きよー、でも一番は大山くんかな〜」
「横山は!横山!」
「てか侑子、そんなに横山横山言ってると、誤解されるよ」
「は?」

誤解?と首を傾げる。それに些か驚いたように目の前の諒は目を開いた。あれ?後ろにいる子たちも同じだ。なぜ?

「…あんた横山くん知らないの?」
「Jsの?」
「うちのクラスの!」
「えっうちのクラスに横山くんいるの?」
「諒、この子どうしたらいいの」
「え?」
「どうしようもないね」
「え?え?」

どうしようもない、と言われても、それはこっちの台詞なんだけど。会話に着いていけない。しかめっ面をし続けていると、むぎゅ、と頬に鋭い痛みが走る。

「いひゃい!いひゃい!!」
「とりあえず、百聞は一見に如かずだね」
「次、ちょうどうちの男子サッカーだよね?」
「確かそのはず。さっき4組の女子共が騒いでたよ」
「いひゃいんですけど!」
「サッカーってことは、グラウンドか」
「よし、行こう」

だから聞け、人の話を(2度目)
諒には頬を引っ張られ、他の女子には背中を押されて、私はグラウンドへと連行されたのでした、まる


***


グラウンドの半面に作られた、大きなサッカーコート。私たちがグラウンドに着いたと同時に試合開始のホイッスルが鳴り響き、うちのクラスと隣の4組との試合が始まる。
ほら、あの一番上手い子。
そう言われてフィールド内を走り回る男子たちを眺める。
うちのクラスは、青のビブスだから、とボールを追っていくと、上手い男子は3人。その中でも特に上手な男子が1人。
中盤あたりでいつもボールを維持してて、攻撃の起点になっている、無表情の彼。

「ね、あの子?」

と、隣の諒に10番の彼を指さす。

「ん、そう」

そう言われてじーっと彼を見る。うん、顔は全く似てないよね。でも、綺麗な顔してるなぁ。あと、すごくサッカー上手、だなぁ。素人の私にでもわかるくらいに。口には出さず、心の中でそう呟く。そうやって顔と身のこなしばかりを見つめてたら、いつの間にか彼はゴール前に来てて、キーパー前で軽くトラップしたかと思うと、すかさず左足でゴールを決めた。思わずわぁ、と口に出す。すごい、それしか言えない。一気に湧きあがる場内外。もちろん、ほとんどがうちのクラスである。些か女子が多い気がするのは、気のせいだろうか。
へいまー!!とクラスの男子共が叫びながら10番の彼、横山君の頭を揉んでいく。ちょっと眉を顰め、ゆるりとクラスメイトをかわし、場外の黄色い声に耳を貸すことなく元の中盤辺りに戻った彼。その口角は僅かに上がっていたように見えた。



(よこやまへいまくん、か。)

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Wステ=Mすて
Js=じゃにーさん
みたいな^O^


(101212)






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