「はい、もしもし」
『ごめん、寝てたか?』
「いえ、起きてましたよ」
『そうか、良かった』
突然ごめん、そう困ったように呟いた彼に、微笑がこぼれた。
只今の時刻は23時55分
日付は、7月29日
かすかに雑音が混ざっている電話の向こうは、東京ではない場所で、三日前からここにいない彼は、本日誕生日を迎えた。また、遠くなった彼との距離。
『名前?』
「あ、すみません。」
『克彦はどうだ?』
「今日も友達とサッカーしたみたいですよ。泥んこの服で楽しそうに話してくれました。」
『そうか。』
きっと今頃ぐっすり眠ってるだろう我が息子を思い、二人で小さく笑う。
23時57分
ザッ、という、一際大きな雑音が入り、電話の向こうが静かになった。
『名前、』
「はい?」
『…星が、きれいだぞ』
「そうなんですか?」
『窓、開けてみてくれ』
言われた通りにカーテンを開き、窓を開ける。
そこに見えたのは綺麗に輝く星と、思った通り、困ったように笑う彼の姿。
「な、んで」
『監督に頼んで、早めにきりあげてもらったんだ。』
時計を見る。
針は59分を指そうとしていた。
「待ってて、ください」
窓は開けたまま、壁にかけてあった上着を着て、この時間帯にはよろしくない音をあげながら階段をかけおりる。勢いづいた体をドアの隙間に押し込むように外に出た。
彼の顔を見たらなぜか我慢ができなくなって、滲んだ世界の中、思いきり飛び付いてやった。
時計はない。だから時間はわからないけど、きっと大丈夫。きっと間に合ってる。だから、
「克朗さん、誕生日おめでとう」
抱きついた先の、彼の耳に囁いた。
子守唄と星のハミング
Happy Birthday Katsuro.S
(090730)
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