3月
桜の木も蕾をつけ始め
春の訪れを感じる今日のよき日

私は、私たちは、この高校を卒業した



授業をサボる時や
気持ちの整理がつかない時に
お世話になったこの屋上で、
今まで過ごした日々に
想いを馳せる

中学で過ごした三年間
高校で過ごした三年間

そして、
彼と過ごした五年間


特に彼と出会ってからは
強烈な日々の連続だった

出会って
恋をして
告白されて
付き合って
喧嘩して
夢を語り合って
一つになって
愛して
愛されて

そのどれもが
私にとって
大切な宝物


どこまでも青い空を見上げ、ゆっくりと息を吐いた



ギィ

見計らったように、
屋上のドアが開いた



「…おかえり」

「…ただいま」


不機嫌な彼
校内でも人気の高い彼にとって、大きな行事の日は大変なようだ

服を見ると
あったはずのボタンが
中のカッターシャツの分も全てなくなっている

私がまじまじと見てることに気づいたのか、また深くなる眉間の皺


私は苦笑いを浮かべながら
もう一度空を見上げた


「ねぇ、翼

私、翼と出会って本当に良かった」

突然なんだと言うように
彼は首を傾ける

「私は、いつまでも翼のことが好きだよ」

例え貴方が、遠い所に行こうとも


今まで考えていた事を
彼に伝える


彼の目が
少し大きく見開かれた


「だからね、」

貴方は自分の夢を追いかけて

風に乗せるように
言葉を紡いだ




貴方が私を悲しませないように、話さなかったのは知ってるよ

でも、柾輝たちに、私が貴方のスペイン行きを知ってるか、確かめさせたのも、知ってる


私が知ってること、知ってたんだよね
それでも、言わないでくれたんだね


「翼は、本当に、優しいね」


いつもマシンガントークを浴びせてきながらも
ちゃんと心配してくれてたのも知ってる

いつも私の事を想ってくれて、愛してくれたのも、知ってる

今までの翼の努力
全て知ってるから

「今まで、迷惑かけてごめんね

…翼、」


別れよう


そう、言おうとした

でも、言えなかった

すぐ傍に、翼の頭


きつく、きつく抱きしめられていた

翼の匂い
私はこの匂いが
大好きだった
いや、今も大好きだ

大きく息を吸って
翼が口を開く


「その先は、言うな」

「で、も」

「俺の話も聞いてくれない?」

涙を耐えながら
翼に向き合った


整った顔
強い意思のある、目

見つめたら吸い込まれそうなほど、綺麗


「俺は、迷惑だなんて思ったこと、一度もない

全部俺が
名前が好きだからやったんだよ」

しっかりと見つめられて、瞬きすらできない

「自分だけ言い逃げなんて許さないよ」


「俺は
今も、昔も、これからも

名前を愛してる」

涙が一筋、流れて消えた


「いつか絶対、名前の事迎えにくるから」

だから、それまで待ってて

そう言って渡されたのは
小さな約束の証と
優しいキス

二人で見つめ合い
笑い合った

指輪の穴を通して
空を見る

その先に私たちの
未来を見た






決して消えない
小さな約束



(090521)






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