「名前を教えてください」 「は?」 またしても、突如現れた平凡はそう言い切った。 自己紹介の話。 目の前の平凡と関わるようになってはや数週間。 考えてみるとお互い名前も知らず、貸し借りだけでやり取りをしていた。 主に平凡がやたら貸し付け、それを俺が返すという奇妙な関係ではあったが。 「なんだよ突然」 今日も屋上で昼飯を食っていると、いつものように現れたそいつの第一声があれである。 「これは、今日のジュースです」 「またかよ……悪徳貸し付けしやがって」 必ず、ここに来るときに持ってくる何かしらのジュースを受けとると、平凡は前に腰を下ろした。 「名前を聞いたことがなかったなと思いまして」 「聞かれてねぇからな?」 受け取ったジュースを開け飲もうとした俺に、平凡が答えた。 ……マンゴーってチョイス、なんだよ。 「だから、今聞きました」 「てめぇに教えたらろくなことねぇだろ」 サンドイッチにかぶりつく平凡に悪態をつく。 因みに俺は食べ終えた。 「別に先生に確認してもいいんですが、それだと不良君が不利でしょう?」 「いや、不利になる意味がわかんねーよ」 というか、教師に聞いても俺特定できんだろ。 「写真はありますので、聞くのは簡単だと思います」 といって見せられた数枚の写真。 いつ撮った!? 「更にこの写真、データもありますのでいくらでも現像できます」 使いたい放題です。 「いやいや、どや顔してっけど犯罪なそれ」 俺の写真、なんに使うんだよ!? 「不良の君と真面目な俺。どちらに、信用の軍配がかかるかなんてすぐにわかりますよね」 「名前ごときにそこまでするか!?」 なぜそこまで名前を知りたがる。 解せぬ。 「ちょっと待て。分かった、教える」 「初めからそう言えばいいんですよ」 にっこりと微笑んだ平凡。 でも、ただではやらん。 「その代わり、てめぇも教えろ」 「いいですけど?」 「いいんかいっ!」 てっきり渋るかと思ったらいいのかよ……面白くなぇなぁ。 「だって、一方的に聞くのはフェアじゃない」 とは、平凡談。 名前に関する貸し借りはこれでないらしい。 くそ、やられた…… 「それでは、名前教えてください」 俺は、篠白夜悠(しのびやはるか)です。 平凡が名乗ったことにより逃げれなくなった俺。 小さくため息をはいて、 「俺は、堂東傑(どうとうすぐる)だ」 名乗る。 しか、道はねぇ。 「意外にかっこいい名前なんですね」 「喧嘩うってんのか。かわいい名前してるクセに」 「全国の悠さんに謝ってくださいよ」 「誰が謝るか」 と、口喧嘩を始めたところで響くチャイムの音。 平凡はささっと荷物を纏めると、 「それでは、堂東くんまた今度」 「誰が会うか!」 言い捨てて帰りやがった。 結局何だったんだ…… 20140214 |