はるさめさんじゃないけど、お父さんみたいです。


   夢のお伽噺 5
    もじゃ男シリーズ編


「なにやってんだ、弟?」

 リビングで、雑誌を読んでいるときでした。
 四人のお兄さんのうち、一番の年長者であるお兄様が声を掛けてきました。

 僕は雑誌を見せながら答えます。

「気になる雑誌があったので、読んでいました」
「動物雑誌か?」

 こうみえて、僕は動物が大好きです。
 小動物系がやはり可愛くて一番好きですが、ライオンや蛇など好きなのであまり苦手な子はいません。
 動物園も一人でこっそり通っているくらいです。

「意外だな。こいつ以外、何か育てたことはあるのか?」

 近くでゴロゴロしていた同居人を抱え、訊ねてきました。
 寝ていたところを起こされているので、不服そうです。

「小学生の頃にメダカを数匹」

 これは学校の授業の一貫で川へ行ったときに捕まえた子達。
 本当は色々な子と一緒に暮らしたいけど、なかなかそういうわけにもいきません。何より、この件で両親に頭を下げるのは気が引けます。

「俺も優秀なキツネと一緒に仕事をしていたな」
「キツネですか!?」
 優秀な犬、ではなくキツネ。
 なぜキツネだったのでしょう。可愛いですけどね。

「たまたま、仕事の依頼で田舎で生活していたときに仲良くなってな。それから一緒だ」
「野良キツネなんですね」

 野生のキツネと仲良くなるのは凄いと思います。
 僕もそのキツネにお会いしてみたいです。

「なんなら会うか?」
「え、いるんですか?」

 彼らがここに来てから一度もキツネ、どころか同居人以外の動物の姿を見たことがありません。
 気を使って、別の場所で隠れてもらっていたのでしょうか。別によかったのに....!

「俺の優秀なキツネは化けれるんだぜ?」
「え?」

「お前、一番最初にあっただろ?」

 僕は脳内をフル回転しました。
 一番最初に会った方といえば、金髪の優しそうなお兄さんーーたくさんでした。

「え、ええ?」

 これが、事実なら、僕はショート寸前です。
 まさか、そんな、ばかな!

「おい、お兄様。さらっと変な嘘をつくな。俺はにんげーん!」

 そこへ掃除をしていた噂の人が登場です。
 お兄様へ冷たい視線を向けている辺り、どうやら嘘の情報のようで、僕は安心しました。

 だって、たくさんが本当にキツネだったら、優秀すぎるでしょう!
 お兄さんの、家事係みたいではありませんか。

「何気に失礼だなお前」
「家事係なら金はぼったくるからな」
 ぼったくるなよ。うんたらかんたら....

 と、楽しそうに掛け合いをしています。
 何だかんだでこの二人は仲がいいようです。

 そういえば。

「お二方に重大なご相談があるんですが」

 真っ当な方に相談しなければならない内容です。
 といっても、お二人の表情は相談の内容がすでにわかっているような雰囲気もあります。

「なんだよ弟?」
「俺達でよければどうぞ?」

「あと二日後に両親が戻ってきます」
 この状況なんと説明しましょう?

 両親へ一度も連絡はしていません。
 勝手に始めた兄弟ごっこです。
 流石に出張から戻ってきたら、彼らも黙ってはいないと思います。
 見ず知らずの人間が家にいるわけですから。

「弟」
「なんでしょうか」

 お兄様がやけに真剣に聞いてきたので、僕にも緊張が走ります。

「お前はどうしたい?」
「僕、ですか」

「そうだ。お前はこれから先もこの家族ごっこを続けたいなら、俺達が何とかしよう」
「だけど、満足したのなら俺達は元の世界に帰るよ」

 お兄様の言葉にたくさんが続けます。
 それは、僕の一言でこの生活が終わるか否かという話でした。

 二人には両親をなんとかする方法も、元の世界へ戻る方法もあるようでした。

 僕はこれからどうしたいのでしょうか。
 最初はぎすぎすしていましたが、皆さん優しい方ばかりで今では僕にとって大切な人達です。

 お友達のようなお兄さんに、喧嘩したりじゃれたりできるお兄さん、大黒柱のようなお兄様に、家事全般ができるお母ーーもといお兄さん。

 それぞれの生活もあると思いますが、まだこの時間を生活を夢物語にしたくありません。
 なんだかんだいいつつ、楽しかったのです。

「答えは出てるようだな?」

 お兄様の声。
 けれど、これをいっては皆さんの本当の生活をまた失うことになります。
 僕はそれが嫌でなりません。

「なぁ、弟。たまには正直にいいんじゃないか? ここにいるお前の兄達は誰も否定も拒みもしねーよ?」
 少なくとも俺はそうだな。

 そう言って笑ったたくさんがあまりにも優しくて、
僕の限界は我慢はあっという間に崩れました。
 次から次へと溢れでるそれをぬぐうこともせず、ただ伝えたいと思います。

「僕は....この生活が楽しいです。大好きです」

 言葉に詰まりますが、お二方はなにも言わず静かに聞いてくれます。

「だから、まだ....まだ、一緒に!」
 暮らしていきたいんです。

 そういったと同時に暖かな体温に包まれて、

「じょーでき。ね、お兄様?」
「全く、素直じゃないやつはこれだから」

 包容しているのはたくさんのようで、僕の頭を撫でているのはお兄様のようです。
 これは、始めから皆さんは、

「俺達はここを離れるつもりなかったぜ、はじめから」
「こんな可愛い弟おいていくわけないじゃん」

 あーもう、本当に。
 僕の感情線は壊れたようです。嬉しくて嬉しくて、次から次へと涙が止まりません。

 本当に素敵なお兄様達です。

「皆に報告しなきゃだな」
「話はそれからだ」

 僕と四人のお兄さんとの家族ごっこはまだまだ続きそうです。




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