たった一人の兄かと思っていたのに。
 現実はそうでもなかったようです。


   夢のお伽噺  2


 長く、無気力な学校を終え、部活に入っていない僕は真っ直ぐ家へと帰ることにしました。
 何気なく登校しましたが、家には見ず知らずの人間を飼い猫と一緒に置いてきているのです。

 少しだけ心配になります。

 重たい荷物を背負って、帰路を急ぎました。

「ただいま帰りました」

 二十分ほどの道程を終え、玄関を開けます。

「おかえりー」

 朝に聞いた声と同じ声が家の中から返ってきました。

 どうやら朝の出来事は夢でもなければ、本当に兄として存在しているのかもしれません。

 僕は、たくさんを待たせないように、急いで玄関で靴を脱いでいるとあることに気付きました。

「靴が増えています」

 たくさん一人しかいないはずなのに、玄関には四足分の靴が並んでいます。
 どういうことなのでしょうか。仲間を呼ばれていたら、僕も対応できません。

「すみません、他に誰かいるのでしょうか?」

 たくさんがいるであろう居間まで向かうと、ドアを開きながら声をかけました。

「あー、気が付けば兄候補が増えてた」

 たくさんが困ったように答えてくれました。

 居間にはたくさん以外に、寛いでいる男子高校生が一人に、私服の男性が二人。
 さすがの僕も驚きます。男ばかりではありませんか。

「この子が弟ですか? 兄としてここで暮らすとなると大きな貸し一になります」

 と、男子高校生が口を開くと、

「それなら、後払いで報酬は貰えるわけだな?」

 しっかりとしていそうな私服の男性が続き、

「俺もついに兄貴になるのかー!」

 大分頼り無さそうな私服男性その二からの、

「よくわからない展開になってきた」

 たくさんへ戻りました。

 展開もなにも、それは僕の台詞です。
 知らぬ間に上がり込んで、貸し一だの報酬だの言われても大変困るのですが、誰が突っ込んでくれるのでしょうか。

 いえ、きっと突っ込んでくれる方はいません。
 兄弟という存在は嬉しいですが、兄だけではなく弟等の選択肢はなかったのでしょうか。
 また、相手の了承を経て連れてくることはできなかったのでしょうか。

 これからの家族ごっこに大きな不安が過ります。

「まぁ、家主も帰ってきたし、自己紹介しとく?」

 人数分のお茶をテーブルに並べたたくさんが然り気無く話を進めだしました。
 このままでは埒が明きませんので、僕も一度荷物を床へ下ろすとテーブルの傍へ腰を掛けました。

「まず、俺から。俺はたく。異世界の方でちょちょーいと旅してたので、家事全般は行けるから任せて」

 たくさん、やはり異世界から召喚されたんですね。
 さらりといってしまうのは、彼のクオリティーなのでしょうか。後が大変続けやすくはなりますが。

 次に口を開いたのは、意外にも報酬希望男でした。

「俺は、異世界で何でも屋をやっていたな。年は一番最年長だろう。だから、お兄様と呼べ」

 大層な自信を含ませた自己紹介です。名前は結局のところわかりそうにありません。

「はいはーい、じゃあ、俺行くよー?」

 頼りない男が、手を挙げました。

「俺、はるさめ。こう見えて二十五才のニートです!」
「ニートな兄が二人とよろず屋の兄とは先が思いやられますね」

 男子高校生が呆れながら呟きました。
 学生である貴方は頼れるというのでしょうか。

 頼ったところで、貸しカウントをされそうで頼りたくはありませんが。
 たくさんが一番の常識人のようです。

 結局、たくさんとはるさめさん以外の名前はわかりませんでしたが、これで何とかやっていかなければならないようです。

「有効期限はよくわかりませんがよろしくお願い致します」


 僕が頭を下げると、個々に肯定の意を示し、この場はおさまりました。
 空き部屋も沢山ありますので、人数が増えたところで問題はありません。

 ところで、一週間後。両親が帰宅したときにどのような言い訳をしましょうか。




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