そして、翌日。その時は来た。 一週間前、初めて後輩と顔を合わせた中庭に俺達は集合していた。勿論、後輩が、櫻下に物件が決まったと報告する為に。 「遥君、物件はどう?」 最初に口を開いたのは、櫻下。 「はい、風山さんが色々してくださって、無事決まりました」 へらりと笑って答えた後輩に、少しだけ苛立ちを覚える。 「そっかぁ。風山、作業早いもんねぇ」 「今回は、両親が協力的だったからな」 ニヤニヤしている櫻下を睨みながら答える。 「でも、よかったねー。引越しするときは手伝うから、いつでも声掛けてね?」 「有難うございます。それじゃあ、僕、次が移動教室なので先に戻りますね。風山さんも有難うございました!」 「おう、気にするな」 「遅れないようにねー」 後輩が一度頭を下げ、そのままこの場を後にする。 さぁ、環境は整った。 「まさか、風山がこんなに早く済ませるとは思わなかった」 「だらだらと、新居を決めるわけにも行かないだろう?」 「まっ、これで俺ともお別れ、開放されるし良かったじゃん」 そう言って、またどこか寂しそうな笑顔を見せる櫻下。 なぁ、お前の本心はどこにあるんだ? そんな表情をされると俺は、期待するぞ。 「そうだな。お前とは、これで終わり、だな」 「――っ。じゃぁ、俺も教室戻るから」 一度引き攣った顔をし、俯いた櫻下は教室へと足を向ける。 たった一度きりのチャンスはここしかないんだ。 俺は、深呼吸をし、覚悟を決めた。 「おい」 「まだ、何かあるの?」 櫻下が不満そうに振り返る。 「ああ、俺はこの瞬間を待っていたからな」 「何が言いたいの?」 立ち止まって、身体ごと振り返った櫻下との距離は、約三メートル。 「今までの……偽りの俺は、お前と別れる」 「偽、り…?」 「改めて言うぞ。これは、俺の本心」 「っ」 ここからでもわかる、櫻下が確かに息を呑んだ音。 俺は一度息を吸い、しっかりと櫻下を見据え、 「俺は、櫻下が好きだ。これは、誰がなんと言おうと裏も偽りもない」 「…嘘とかじゃなくて? 俺から急に言われたから勘違いしてるんじゃないの?」 櫻下の、焦った表情が見え隠れしている。 「嘘じゃねぇよ。もともとお前が好きだったんだ。だから、あいつらとのお遊びに便乗したことも後悔したし、こんな関係をだらだら続けるのも苦痛だった」 「い、つから?」 「いつからだろうな、お前が好きだったんだ」 「嘘じゃないんだよね? 本当だよね?」 櫻下が徐々に近付いてくる。俺は何一つ嘘を言っていないんだ。だから、一言、 「嘘じゃねーよ、櫻下。好きだ、今度こそ付き合おうぜ?」 「――っ。勿論、喜んで!」 勢いよく抱きついてきた櫻下を俺は受け止めた。 間違いなく、夢でもなくこれは、 「オーケーだよな」 「当たり前じゃん! 俺の方がビックリだよ!」 満面の笑みを浮かべた櫻下に、俺もつられて微笑み返す。 さて、今日の放課後は病室で櫻下へネタ晴らしだな。 「櫻下」 「何?」 「放課後、遊びに行くぞ」 「わー! 早速お誘い! 約束だからね」 「あまり期待するなよ」 「えへへ、楽しみだなー!」 俺から降りた櫻下は、ニコニコしながら教室へと足を進める。 ――――なぁ、櫻下。 ――――風山、さっきから呼び過ぎ! ――――悪いけど、学校じゃ今まで通りだから。 ――――風山のばかぁぁぁぁ! スタンスはそう簡単に変わらねぇよ。 |