『いつ起きるかわからない恐怖』


 このまま目覚めなかったら、何て考えるだけでゾッとする。
 これを二ヶ月の間毎日体験していれば、精神的にも疲労が溜まるのは頷ける。

「悪かったな、本当に」
「ほんとに、ほんとに思ってる?」

 腕の中で寝ていたはずの遥哉から、ボソボソと聞こえる声。

「ああ、嘘じゃない」
「なら、なら……!」

 もう二度と離れないでよ。

 俺を掴む指が強まり、冷たい感覚と等間隔な振動が身体を襲う。
 ああ、また、泣かせているようだ。

「約束する、もう二度と話さねぇよ」

 遥哉の姿が見えなくても、感じることは出来る。
 ただ、苦労するのは俺で無く、遥哉自身になる。お前は、それでいいのか。

「なぁ、遥哉。お前こそいいのか」
「何が……?」

 不安そうな声。

「俺と一緒にいるということは、色んな事が苦痛になってくるだろう。それでも、いいのか」
「……伊紗祢と一緒にいたい。これだけじゃダメなの? 伊紗祢はもう、………違うの?」
「そういうわけじゃない。ただ、俺は―――」

「ちゃんと伊紗祢の眼になる! 伊紗祢の手助けだってする! 弱音も吐かないから、これ以上……これ以上言わないで」
「――っ」

 叫ぶように言い放った遥哉に俺は息を飲んだ。

 見えないけど視える。

 辛くて、寂しくて、愛してほしい時に見せる凄く必死で心が締め付けられる表情。

「遥哉」
「………」
「はるやく〜ん?」
「………」
「遥哉……」

 何度呼んでも黙りを決め込んだ遥哉はなかなか手強く、小さく溜息を吐いた。

「悪かったよ」
「何が? さっきからずっと謝ってばかりだ」

 刺のある言葉を選んで答える遥哉。

「聞き過ぎたことも遥哉を追い詰めたことも。全部俺のせい」
「そんなこと……!」

 俺が申し訳なく寂しそうに言えば、慌てて否定する。
 ちゃんと愛してるのに、この愛されたがりは次から次へと表情や空気を変え可愛すぎる。

「くくっ」
「何で笑うの! 僕真剣なのにっ」
「悪かった。余りにも可愛くてな」
「伊紗祢の悪かったは聞き飽きた! それに僕は可愛くないっ」
「いや、すげぇ可愛いよ」

 頬を膨らませ拗ねているであろう最愛の子の髪を撫でると擽ったそうな声が聞こえてくる。

「なぁ、遥哉」

 戯れている遥哉に優しく声を掛ける。

「ん?」
「これからも、これからもさ―――」

 俺の切なる願いは、遥哉の温かな空気と声、そして満面の笑みで返された。


 ――――ずっと傍にいてくれよな。
 ――――もちろん! ずっと一緒。





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 イベント用に書いた小説。
 見本がてらにサイトへアップ。

 但し、実際の本では内容を改変する可能性大です。
 あくまでも参考に。


2010.11.18.



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