あれから一週間後。 君は部屋を移動して、ガラス越しでなくとも、側で見ることが出来るようになった。 それでも目覚める気配はなくて、【植物人間】になる可能性もあるかもしれない。 そんなことを話していた気がする。 「ね、伊紗祢、今度いつ遊ぶ?」 答えが無いのに、君に声を掛けてしまうのはどうしても縋っていたいからで。僕らの関係を知っている君の家族も、僕がいる間は部屋に顔を出すことはなかった。 今日も病室で二時間くらい過ごして、変化の無い君に落胆しながら病室を出たときだった。 「遥哉君。少し良いかな」 多分、僕の事を待っていた君のお姉さんから声を掛けられた。 僕は二つ返事をすると、お姉さんと場所を変えるため歩きだした。 「伊紗祢の事なんだけどね」 中庭のベンチに腰を掛けた時、お姉さんがゆっくり口を開いた。 それも君の事で、やばい、心臓がバクバクいってる。 「お医者様から、目覚めても視力は失っているだろうって」 「な、んて……?」 「うん、もう……何も見えないだろうって、私たちの事を捕らえきれないだろうって」 お姉さんの声は震えていて、僕の頭にはすんなり意味が入ってこない。 見えなくなるって? 君が? それはなんのこと? ねぇ、ねぇ、……ねぇ! だって、君はもう僕の事見てくれないってことだよね? やだよ! 死んだり、忘れたり、寝たままだったりするのと同じくらい嫌だ。 「どうにも、ならないの?」 お姉さんに話しかける僕の声も震えていて、何て弱々しいんだろう。 「私もお医者様に同じ事を言ったわ。けれど、伊紗祢の瞳には、事故った時の衝撃で粉砕したトラックのライト硝子が刺さっているの。だから、無理だって」 「手術は……?」 「取り除く手術なら可能だわ。だけど、伊紗祢の瞳に代用できるモノも、治せるだけの医療技術も無いって。下手に手術をして失敗する方が、よっぽど危険で死んでしまう率も高くなるのよ」 「うわ……っ」 我慢してた涙は、止めておくことが出来なくて次から次へと流れてくる。 お姉さんも我慢してるのに、僕だけ泣いて馬鹿みたいだ。 悲しいのも寂しいのも、辛いのも僕だけじゃ無いのに。 真っ暗な世界で生きていく君の方がもっと怖くて、もっと不安なのに。 「泣かないで、遥哉君。伊紗祢が気付いたら悲しんでしまうわ」 優しく頭を撫でてくるお姉さんの手はやっぱり震えていて、泣くのを堪えてるんだ。 僕だけ泣いてるだなんて、本当に君に合わせる顔がない。 「ふふっ、そろそろ戻りましょう。それとも、帰る?」 僕の涙が大分落ち着いた頃、お姉さんが微笑みながら問い掛けてきた。 君の顔をもう一度見たいけれど、そうすればお姉さんと家族と過ごす時間がなくなってしまうから。 (また、泣いてしまいそうだから) 「ありがとう。だけど、今日は帰ることにするね」 ―きちんと笑えていたかわからないけど―微笑みながら言葉を返して、僕はベンチから立ち上がった。 「そう。また、明日会いましょう」 「うん。また、明日」 明日は笑って君に会いにくるから。 いつ目が覚めても不安にならないようにするから。 だから、明日までバイバイ――――伊紗祢。 |